４０（４）ショセ・ダンタンがお勧め

　４０（４）ショセ・ダンタンがお勧(すす)め

3-40-4-1「ほほう！」と、伯爵は言った。3-40-4-2「なるほど御夫婦（ごふうふ）だけは別なんですな。3-40-4-3そうそう、御縁談（ごえんだん）とかローマでお聞きしましたな。3-40-4-4近い将来（しょうらい）の御幸福（ごこうふく）にたいして、お祝（いわ）い申しあげてもよろしいでしょうか？」。3-40-4-5「ところが、まだ話だけのことなのでして」。3-40-4-6「話にまでなっているなら、もうできたのも同じことさ」と、ドプレーが言った。3-40-4-7「冗談（じょうだん）じゃない！」と、アルベールが言った。3-40-4-8「もっとも、父も非常（ひじょう）に望（のぞ）んでおりますので、近いうち、妻としてではないにしても、せめて許嫁（いいなずけ）としてでも、ユージェニー・ダングラール嬢（じょう）を御紹介（ごしょうかい）できるかと思っております」。

3-40-4-9「ユージェニー・ダングラール嬢！」と、モンテ・クリスト伯が言った。3-40-4-10「お待ちください、その方（かた）のお父様（とうさま）というのは、ダングラール男爵（だんしゃく）ではありますまいか？」。3-40-4-11「ええ、」と、アルベールが答えた。3-40-4-12「ただし、新男爵にすぎませんが」。3-40-4-13「なんとおっしゃる？」と、モンテ・クリスト伯は答えた。3-40-4-14「栄爵（えいしゃく）に相応（そうおう）するだけ国家（こっか）に功労（こうろう）がおありだったら、少しもかまわないではありませんか？」。3-40-4-15「偉大（いだい）な功労があったのでして」と、ボーシャンが言った。3-40-4-16「自由思想（じゆうしそう）こそ抱（いだ）いていますが、１８２９年シャルル十世のために六百万（読者註：６，０００，０００Ｘ１，０００＝６０億円）の国債（こくさい）を起（お）こして成功（せいこう）し、王さまから、男爵の位（くらい）をいただき、レジオン・ドヌール勲章（くんしょう）のシュバリエを授（さず）けられたというわけでして。3-40-4-17そうしたわけで、略綬（りゃくじゅ）をチョッキのポケットにでもしまっておくかと思いのほか、それを麗々（れいれい）しく上衣（じょうい）の『ボタン』穴に着けているような男なのです」。

3-40-4-18「おい、おい！」と、アルベールは笑いながら言った。3-40-4-19「ボーシャン、ボーシャン、そんなことは、『ル・コルセール』か、『ル・シャリバリイ』あたりにでも書くことだぜ。3-40-4-20せめて僕の前だけでも、未来（みらい）の舅（しゅうと）だ、少しお手柔（てやら）わかに願いたいな」。3-40-4-21こう言ってから、モンテ・クリスト伯のほうを向き直って、3-40-4-22「ところで、さきほどその人の名を口（くち）にお出しになったとき、どうやら御存じのようにお見うけしましたが？」と、言った。3-40-4-23「いや、存じあげません」と、モンテ・クリスト伯はあっさり答えた。

3-40-4-24「だが、たぶん近いうちにお近づきになれるでしょう。3-40-4-25わたしは、ロンドンのリチャード・ブラウント、ウインナのアルシュタイン・ウント・エスケレス、ローマのトムスン・アンド・フレンチ商会などの預金（よきん）を、その方のところで受取ることになっているので」。3-40-4-26そして、この最後の名を口にしたとき、モンテ・クリスト伯は、マクシミリヤン・モレルのほうへ流し目を送った。3-40-4-27もし、伯爵が、それによって、マクシミリヤン・モレルになにか感動（かんどう）を与えようとしたのだったら、まさに図（ず）にあたったというべきだった。3-40-4-28マクシミリヤンは、電気（でんき）にでも撃（う）たれたように躍（おど）りあがった。

3-40-4-29「トムスン・アンド・フレンチ商会、あなたはその店（みせ）を御存じですか？」と、大尉が言った。3-40-4-30「あの店は、キリスト教国の首府（読者註：今のバチカン市国ではない。ローマは教会の領土の一つだった）でのわたしの取引銀行（とりひきぎんこう）になっております」と、伯爵はしずかに答えた。3-40-4-31「あの店のことで、なにかお役に立つようなことがありましたら？」。3-40-4-32「おお、伯爵、じつはいままでいくら調べてもだめだったことで、或（ある）いはお助けをお願いしようかと思います。3-40-4-33昔、あの店は、わたしどもの店のために尽くしてくれたことがありました。3-40-4-34ところが、なぜかわかりませんが、そうした事実（じじつ）はないと否定（ひてい）しつづけておりますので」。

3-40-4-35「お役に立つことでしたらなんなりと」と、モンテ・クリスト伯は、会釈（えしゃく）しながら答えた。3-40-4-36「ところで、ダングラールさんのことから、妙（みょう）に話がそれました」と、アルベールが言った。3-40-4-37「問題は、モンテ・クリスト伯爵に適当なお住居（じゅうきょ）をお見つけするということでした。3-40-4-38さ、諸君（しょくん）、智慧（ちえ）を出し合って、一つなんとかしようじゃないか？3-40-4-39わが大パリ市の珍客（ちんきゃく）を、いったいどこにお泊（と）めすることにしたらいいんだ？」。3-40-4-40「フォーブール・サン・ジェルマンさ」と、シャトー・ルノーが言った。3-40-4-41「あのへんだったら、中庭（なかにわ）と庭園（ていえん）を前後（ぜんご）にもった、しゃれた小邸宅（しょう・ていたく）があるだろう」。

3-40-4-42「なにを言ってる、シャトー・ルノー」と、ドプレーが言った。3-40-4-43「君は、あの淋（さび）しい陰気（いんき）なフォーブール・サン・ジェルマンを知らないのか。3-40-4-44伯爵、この男の意見（いけん）に耳をおかしになりませんよう。3-40-4-45ショセ・ダンタンになさるのですな。3-40-4-46あそこでしたら、パリのほんとの中心（ちゅうしん）です」。3-40-4-47「オペラ街（がい）の二階、バルコニーの附いている家がいいぜ」と、ボーシャンが言った。3-40-4-48「伯爵は、そこへ銀ラシャのクッションを運ばせ、チブーク（長煙管：ながきせる）をくわえるか、丸薬（がんやく）を呑（の）むかなさりながら、全市の人たちが、眼の下を行列（ぎょうれつ）していくのをごらんになるのがいいだろう」。3-40-4-49「モレルさん、べつに御意見をおっしゃらないが、なにかお考えつきはありませんか？と、シャトー・ルノーが言った。

ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/6/5-8