３９（９） ３９（９）
| 3-39-9-1「いったい誰（だれ）のだ？」。3-39-9-2「とうぜん僕（ぼく）のさ」と、アルベールが答（こた）えた」。3-39-9-3「ぼくにしたって、助けられてもいいだろう。3-39-9-4首（くび）を切（き）るのは、なにもアラビヤ人だけとはきまってやしないし！3-39-9-5つまり、今日（きょう）の午餐（ごさん：昼食）は、人類愛（じんるいあい）の午餐（ごさん）なんだ。3-39-9-6この食卓（しょくたく）には、少なくとも僕の希望（きぼう）しているところでは、人類（じんるい）の恩人（おんじん）が、二人（ふたり）まで列（れっ）してくださろうというわけなんだ」。3-39-9-7「そいつはこまった。3-39-9-8モンティオン賞（著者註：前出、博愛についての功労賞）は、一（ひと）つきりしかないんだから」と、ドプレーが言った。 3-39-9-9「そうだったら、つまりその賞（しょう）をねらわずに行動（こうどう）した人に贈（おく）ればいい」と、ボーシャンが言った。3-39-9-10「学士院（がくしいん）は、困ったときには、いつもそうすることにきまってるんだ」。3-39-9-11「で、その人は、いったいどこからやって来るんだ？」と、ドプレーがきいた。3-39-9-12「君の答えは前にも一度（いちど）聞いてはいたが、はっきりそれとつかめなかったんだ。3-39-9-13それで、も一度（もいちど）きくわけなんだが」。3-39-9-14「じつのところ、それは僕にもわからないんだ」と、アルベールが言った。3-39-9-15「三ヶ月前、その人に招待（しょうたい）のことを申しこんだときには、ちょうどローマにおいでだった。3-39-9-16だが、それからどこへ行かれたか！」。 3-39-9-17「でも、『ちゃん』と来ることだけはたしかなのかね？」と、ドプレーがたずねた。3-39-9-18「なんでもできる人なんだからな」と、アルベールが答えた。3-39-9-19「五分間（ごふんかん）だけ待てと言ったが、気をつけ給（たま）えよ、あと十分（じゅっぷん）しかないんだぜ」。3-39-9-20「では、その十分間に、その客人（きゃくじん）のことを、一言（ひとこと）耳（みみ）に入（い）れておくかな」。3-39-9-21「ちょっと、待（ま）った、」と、ボーシャンが口（くち）を挟（はさ）んだ。3-39-9-22「その話（はなし）のなかに、何（なに）か記事（きじ）になりそうなことはないだろうか？」。 3-39-9-23「あるともさ。3-39-9-24しかも、きわめてふしぎなことがあるんだ」と、アルベールが言った。3-39-9-25「それを聞こう。議会（ぎかい）へ行っても間（ま）に合（あ）わないし、その入（い）れ合（あ）わせをつけなければ」。3-39-9-26「去年（きょねん）、謝肉祭（しゃにくさい）のとき、僕はローマに行っていた」。3-39-9-27「それは知っている」と、ボーシャンが言った。3-39-9-28「知ってるね。3-39-9-29だが、僕が山賊（さんぞく）にさらわれたことは知っていまい？」。3-39-9-30「山賊なんかいるものかね」と、ドプレーが言った。3-39-9-31「どうしてどうして。3-39-9-32それがいるんだ。3-39-9-33しかも怖（おそ）ろしい、堂々（どうどう）たるやつがちゃんといるんだ」。 3-39-9-34「おいおい、アルベール、」と、ドプレーが言った。3-39-9-35「白状（はくじょう）しろよ、料理番（りょうりばん）がぐずついてるとか、マレンヌかオスタンドからの牡蠣（かき）がまだ着（つ）かないとか、或（ある）いはマントウノン夫人（ふじん）のひそみにならって、料理のかわりに話しでごまかすつもりだとか、ざっくばらんに言ってもらおう。3-39-9-36どうせ気のいい連中（れんちゅう）たちだ。3-39-9-37いかにばかばかしい話だろうが、咎（とが）め立（だ）てせずに聞いてやるから」。3-39-9-38「ところが、ばかばかしいかもしれないが、洗（あら）いざらいほんとうの話だ。3-39-9-39僕は山賊にさらわれて、聖セバスチャンの塋窟（えいくつ：カタコンブ）という、恐（おそ）ろしく淋（さび）しいところへ連（つ）れていかれた」。3-39-9-40「そこなら知ってる」と、シャトー・ルノーが言った。3-39-9-41「僕はあそこで、危（あや）うく熱病（ねつびょう）にかかりかけた」。3-39-9-42「僕の場合はそれ以上で、ほんとの熱病にかかっちゃった」と、アルベールが言った。 3-39-9-43「山賊は身代金（みのしろきん）がくるまで、人質（ひとじち）になっていろと言う。3-39-9-44その身代金も、ローマの金（かね）にして四千エキュ（読者註：かつて４，０００万円と試算したが・・・）、トウール貨（か）になおせば二万六千リーブル（読者註：２６，０００×１，０００＝２，６００万円）。3-39-9-45ところがあいにく、もう一万五千リーブルしか僕にはなかった。3-39-9-46それに旅行も終りに近い頃だし、信用状の金も無くなって来ている。3-39-9-47そこで、フランツへ宛（あ）てて手紙を書いた。3-39-9-48うん、そうそう、フランツも僕といっしょだった。3-39-9-49僕の言葉に、たといちょっとでも嘘（うそ）いつわりがあるかどうか、あいつにきいてもらえばわかるさ。 3-39-9-50僕は、フランツへ宛てて、もし朝の六時に、四千エキュ届けてもらえないと、晩（ばん）の六時には、僕は、身のまわりにおいでの聖者たちや栄（は）えある殉教者（じゅんきょうしゃ）と、おなじところへ行かされるだろうと書いてやった。（読者註：カタコンベは、地下に掘られた巨大な共同墓地で、通路があり、かいこ棚状に遺体を収納する）3-39-9-51それに、ルイジ・バンパときた日には−−−これが、山賊の首領（しゅりょう）の名前なんだが−−−いったん口（くち）に出した言葉（ことば）を、絶対（ぜったい）変（か）えない男（おとこ）なんだ、まったく」。3-39-9-52「で、フランツが、四千エキュ届（とど）けに行ったというわけか？」と、シャトー・ルノーが言った。3-39-9-53「フランツ・デピネーとか、アルベール・ド・モルセールとか名乗（なの）る以上（いじょう）、四千エキュの金（かね）で困（こま）るようなことはないはずだし」。3-39-9-54「ところが、だ、やつは、これからお話しようと思っている、そして、諸君（しょくん）に紹介（しょうかい）したいと思っている、一人の客人（きゃくじん）をつれて来たというだけなんだ」。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/6/2