３９（５） ３９（５）
| 3-39-5-1「なんだ男か！男だったらいやというほどお近づきがあらあね！」。3-39-5-2「だが、それは僕の言うようなちかづきではないぜ」。3-39-5-3「どこの男だ？3-39-5-4世界の果（は）てからでもくるような男か？」。3-39-5-5「おそらくもっと遠くからさ」。3-39-5-6「ふん！だからといって、まさかその男が、われらの午餐（ごさん）を持（も）ってくるわけでもないんだろう？」。3-39-5-7「そこのところはだいじょうぶ、安心（あんしん）したまえ、3-39-5-8午餐は母の台所（だいどころ：キッチン）のほうで支度（したく）させてる。3-39-5-9そんなに腹（はら）がすいたのかね？」。 3-39-5-10「うむ、打ちあけて言うのはきまりが悪いが、じつのところはそうなんだ。3-39-5-11昨日（きのう）ビルフォール氏のところで晩餐（ばんさん）を食（く）ったが、君の考えはどうか知らんが、裁判所（さいばんしょ）の連中（れんちゅう）の晩餐ときたら、なんともたまらないほどけっこうなやつでね。3-39-5-12まるで、怨恨（えんこん）に責（せ）められてでもいるというようなんだ」。3-39-5-13「ふん！よその家の晩餐を、けなしたければけなすがいいや。3-39-5-14どうせ大臣連（だいじんれん）のところで、けっこうな食事をしているこったし」。 3-39-5-15「とんでもない。3-39-5-16少なくとも、われわれのところへくる客ときたら、ちゃんとした連中なんかいないんでね。3-39-5-17やむをえずに御機嫌（ごきげん）をとったり、とりわけ、こちらへ投票（とうひょう）させるためのででもなければ、大臣のところの晩餐なんかまっぴらごめんだ」。3-39-5-18「では、君、ヘレスをもう一杯（いっぱい）、それにビスケットをもう一つ」。3-39-5-19「ありがとう。3-39-5-20君のところのスペイン葡萄酒（ぶどうしゅ）はじつにうまいな。3-39-5-21あの国を、平和な国にしてやったというのが、じつに『もっとも』だったということがわかるだろう」。 3-39-5-22「うむ、だが、ドン・カルロスは？」（著者註：スペイン王シャルル四世の第ニ子フェルジナンド七世の弟、１７８８−１８５５）。3-39-5-23「なあに、ドン・カルロスは、ボルドーの葡萄酒（ぶどうしゅ）を飲んでりゃいい。3-39-5-24そして、十年もしたら、あれの息子（むすこ）をちょっとした公爵（こうしゃく）の娘（むすめ）とでも結婚（けっこん）させるさ」。3-39-5-25「そうなればもし君がそのころまだ役所（やくしょ）づとめをしていたら、さしずめトワゾン・ドール（金毛勲章）というとこだな」。3-39-5-26「ところでアルベール、君（きみ）は今朝（けさ）、煙（けむり）の御馳走（ごちそう）で腹（はら）をこしらえさせようというわけかね？」。 3-39-5-27「そうなんだ。3-39-5-28それがいちばん胃袋（いぶくろ）を楽（たの）しませるっていうわけなのさ。3-39-5-29ちょっと待った、次の間（ま：部屋の別名）にボーシャン君（くん）の声（こえ）がする。3-39-5-30二人で議論（ぎろん）をしてみろよ。3-39-5-31きっとがまんができるだろうぜ」。 3-39-5-32「なんの議論だ？」。 3-39-5-33「新聞（しんぶん）のことでも」。 3-39-5-34「おい、君（きみ）」と、ドプレーは、このうえもない侮蔑（ぶべつ）の色をみせながら言った。3-39-5-35「この僕が、新聞なんか読（よ）んでると思うのか！」。 3-39-5-36「それならなおさらけっこうだ、3-39-5-37さらに議論が栄（さか）えようさ」。 （２）新聞記者：ボーシャン 3-39-5-38「ボーシャンさまのお出でございます」と、下僕（げぼく）が知（し）らせた。3-39-5-39「さあさあ、どうか。3-39-5-40あたるべかざる健筆家（けんぴつか）！」。3-39-5-41アルベールは立ちあがって、客を迎（むか）えに立っていった。3-39-5-42「君（きみ）、ドプレー君（くん）はね、少なくも御当人（ごとうにん）の言葉によると、君の書いたものなぞ読みもしないで、しかも君が嫌（きら）いだってさ」。 3-39-5-43「もっともだな」と、ボーシャンが言った。3-39-5-44「それは、この僕にしたって同じことだ。3-39-5-45僕のほうでも、この人のしていることなぞ知りもしないで、一途（いっと：いちず）にい非難（ひなん）してるんだから。3-39-5-46やあ、今日（こんにち）は勲二等（くんにとう）君（くん）」。3-39-5-47「おや、もうそれを知ってるのか」と、秘書官は、握手（あくしゅ）と微笑（びしょう）をかわしながら言った。3-39-5-48「知ってるともさ！」と、ボーシャンが言った。3-39-5-49「で、世間（せけん）じゃなんて言ってるね？」。 3-39-5-50「どこの世間さ？3-39-5-51この１８３８年（今日は１８３８年５月２１日）には、いろいろな世間があるんだからな」。3-39-5-52「君が、その音頭（おんど）取（と）りの一人である厳正（げんせい）批判派（ひはんは）の世間でさ」。3-39-5-53「きわめてとうぜんだといってるよ。3-39-5-54ずいぶん赤い血を流させたあとだ、少しは青（著者註：勲二等の綬が青であるとこから言った皮肉）もよかろうって」。3-39-5-55「おいおい、お手やわらかに願いますぜ」と、ドプレーが言った。3-39-5-56「ボーシャン君（くん）、君（きみ）はなぜわが党にならないんだ？3-39-5-57君くらいの才能（さいのう）があれば、三四年（さん・よん・ねん）もするうちに一財産（ひとざいさん）できるが」。 3-39-5-58「だから、僕は君の意見（いけん）に従（したが）おうと思って、唯（だた一（ひと）つのものだけを待ってるのさ。3-39-5-59つまり六ヶ月（ろっかげつ）はたしかに寿命（じゅみょう）のつづくことのたしかな内閣（ないかく）をね。3-39-5-60ところで、ちょっとおたずねしたいが、それはつまり、ドプレーをホッとさせてやりたいからなんだが、いったいわれわれは、午餐を食べさせてもらえるのかね？3-39-5-61それとも晩餐を食べるのかね？3-39-5-62僕は議会（ぎかい）に行かなければならないんだから。3-39-5-63わかるだろうが、僕らの稼業（かぎょう）は、なかなか薔薇色（ばらいろ）とはいかない（楽にはいかないの意）のさ」。3-39-5-64「もちろん午餐さ。3-39-5-65もう二人（ふたり）だけ待てばいいんだ。3-39-5-66その人たちがきたら、すぐにはじめる」。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/5/31