３８（３） ３８（３）
| 3-38-3-1「どうしたんだ？」と、室に帰るなり、アルベールはフランツにたずねた。3-38-3-2「とても心配（しんぱい）そうだが」。3-38-3-3「うん、」と、フランツは言った。3-38-3-4「正直（しょうじき）なところ、伯爵はじつにふしぎな男だ。3-38-3-5で、君（きみ）の約束のパリで落ち合うということも、僕にはちょっと不安（ふあん）なんだ」。3-38-3-6「あの約束が・・・・不安だって！3-38-3-7なんのこった、君は気でもちがったのかい、フランツ」と、アルベールは叫んだ。3-38-3-8「ふん、」と、フランツが言った。3-38-3-9「気違（きちが）いかどうかはわからないが、なにしろ事実（じじつ）は事実なんだ」。 3-38-3-10「まあ聞けよ」と、アルベールは言葉をつづけた。3-38-3-11「いい機会（きかい）だからちょっと言っときたいが、見受（みう）けるところ、君（きみ）は伯爵にたいしてかなり無愛想（ぶあいそう）なようすだった。3-38-3-12それにたいして、伯爵のほうではまったく申しぶんのない態度（たいど）だった。3-38-3-13それについてだ、君は伯爵になにか特別（とくべつ）なことでもあるのかい？」。 3-38-3-14「おそらく」。 3-38-3-15「ここで会う前に、どこかで会ったことがあるのかい？」。 3-38-3-16「そのとおり」。 3-38-3-17「どこでだ？」。 3-38-3-18「話してもいいが、絶対（ぜったい）他言（たごん）しない約束ができるかな？」。 3-38-3-19「できるとも」。 3-38-3-20「誓（ちか）って？」。 3-38-3-21「誓って」。 3-38-3-22「よし、それなら話そう」。 3-38-3-23そこで、フランツはアルベールに向かって、モンテ・クリスト島への遠出（とおで）のこと、どういうことから密輸入者（みつゆにゅうしゃ）の一団（いちだん）といっしょになったか、またそのなかにいた二人のコルシカの山賊（さんぞく）と出会（であ）うことになったか、それにとりわけ、 伯爵の与えてくれたあの『アラビアン・ナイト』の洞窟（どうくつ）のなかでの夢（ゆめ）のような歓待（かんたい）の巨細（きょさい）について話して聞かせた。 3-38-3-24彼は、晩餐（ばんさん）のこと、ハシッシュのこと、彫像（ちょうぞう）のこと、現実（げんじつ）と夢とのこと。3-38-3-25そして目が覚（さ）めたとき、そうしたできごとの記憶（きおく）として、またその『しるし』として、ただポルト・ベキヨへ向かって水平線（すいへいせん）はるかに影（かげ）を見せたあの小さなヨットだけだったことを話して聞かせた。 3-38-3-26話はそれからローマのことにうつった。3-38-3-27コリゼーの夜、伯爵とバンパの間（あいだ）にかわされたペピーノに関する話を立ち聞きしたこと、話の中で、伯爵はペピーノの特赦（とくしゃ）を約束し、その約束は、読者（どくしゃ）諸君（しょくん）もすでに知っておいでのように、完全（かんぜん）に果（は）たされたことなども話して聞かせた。 3-38-3-28話はそれから前の晩のことにうつっていた。3-38-3-29金額を揃（そろ）えるのに六七百（ろく・しち・ぴゃく）ピアストル足りないのに気がついたときの当惑（とうわく）、ふと思いついて伯爵に頼（たの）みに行ったこと、その考えがああしたすばらしい満足（まんぞく）な結果（けっか）をもたらしたということなどを。3-38-3-30アルベールは、一心（いっしん）にフランツの語るところに耳を澄（す）ましていた。 3-38-3-31「それで、どうだというんだ？」と、聞き終（おわ）ってからアルベールは言った。3-38-3-32「いままでの話のなかで、どこにあやしい点があるというんだ？3-38-3-33伯爵は、旅（たび）をして歩（ある）いてるんだ。3-38-3-34自分（じぶん）の船（ふね）を持っている。3-38-3-35それは金（かね）があるからのことなんだ。3-38-3-36ポーツマウスかサザンプトンでも行ってみたまえ、同じように気まぐれなイギリスの金持（かねもち）どものヨットで、港（みなと）はいっぱいになっているから。 3-38-3-37そして遠出（とおで）のときの気軽（くがる）な足だまりの意味において、それにまた、僕としてはこの四カ月このかた、君としては四年このかた食（く）わされつづけているようなこうした物（もの）すごい食事を口（くち）にしないですむためにと思って、それにまた、寝（ね）ようたって寝られないものすごい寝床（ねどこ）に横（よこ）にならないですむためにと思って、モンテ・クリスト島に足溜（あしどま）りをつくっただけのことじゃないか。3-38-3-38足留りができると、伯爵は、トスカナ政府（せいふ）から追払（おいはら）われたりして、せっかくかけた費用（ひよう）がむだになってもつまらないと考えた。 3-38-3-39そこで、その島（しま）を買（か）って、その島の名（な）を名乗（なの）ったのさ。3-38-3-40考えてもみたまえ、君の知っている連中（れんちゅう）のなかには、かつて持ってなんぞいなかった土地（とち）の名（な）を名乗（なの）っている人だってあるじゃないか」。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/5/26