３７（７） ３７（７）
| 3-37-7-1ペピーノは、細（ほそ）い小径（コミチ：小道）づたいに、ローマ平原（へいげん）の起伏（きふく）の多い面（めん）を見せた地面（じめん）の向こうへはいって行き、大きな獅子（しし）の逆立（さかだ）った鬣（たてがみ）とでもいったような、高い赭（あか）ちゃけた草原（そうげん）の中に姿（すがた）を没（ぼっ）した。3-37-7-2そのあいだ、五分（ごふん）ばかりの時間がたった。3-37-7-3「さあ、ついて行きましょう」と、伯爵が言った。 3-37-7-4フランツと伯爵は同じ小径をたどっていった。3-37-7-5そして百歩（ひゃっぽ）ばかりゆくと、ひとつの坂路（さかみち）を下って、小さな谷の底に出た。3-37-7-6やがて、もの蔭（かげ）で話している二人の男の姿が目にはいった。3-37-7-7「もっと先ですか？」と、フランツが言った。3-37-7-8「それとも、ここで待っていますか？」。3-37-7-9「行きましょう。3-37-7-10ペピーノが、番兵（ばんぺい）にわたしたちの来たことを言ってあるでしょう」。3-37-7-11なるほど二人のうちの一人（ひとり）はペピーノだった。3-37-7-12そして一人は見張（みは）りをしている山賊（さんぞく）だった。 3-37-7-13フランツと伯爵が近づくと、山賊のほうから挨拶（あいさつ）をした。3-37-7-14「閣下（かっか）」と、ペピーノは伯爵に言った。3-37-7-15「まっすぐおいでくださいますと、塋窟（えいくつ：カタコンブ）の入口（いりぐち）はここからすぐでございます」。3-37-7-16「よろしい」と、伯爵は言った。3-37-7-17「前へ立って行くがいい」。3-37-7-18なるほど藪畳（やぶだたみ）が『こんもり』高くなっているあたり、幾（いく）つかの岩石（がんせき）のあいだに、人がようやく通れそうな入口（いりぐち）が開いていた。3-37-7-19ペピーノは先へ立ってこの隙間（すきま）から滑（すべ）りこんだ。3-37-7-20だが五六歩（ごろっぽ）進（すす）むか進まないうちに、地面（じめん）の下の通路（つうろ）は広くなった。 3-37-7-21そこで彼は立ち止（ど）まって炬火（きょか：たいまつ）をつけ、後から二人がついてくるかどうかと振（ふり）り返った。3-37-7-22伯爵は、先へ立って、一種（いっしゅ）の風穴（かざあな）といったようなところへはいって行った。3-37-7-23フランツがそれにつづいた。3-37-7-24地面はなだらかな斜面（しゃめん）をなして落（お）ちこんで行き、進（すす）むにしたがって広（ひろ）くなった。3-37-7-25だが、フランツと伯爵とは、まだ屈（かが）んで歩かなければならなかった。3-37-7-26それに、二人（ふたり）並（なら）んで歩くこともむずかしかった。3-37-7-27二人は五十歩ばかりこんなぐあいで歩いて行くと、「誰（だれ）か？」という声にとめられた。 3-37-7-28同時に二人は、闇（やみ）のなかに、自分たちの炬火の光に照らしだされた騎銃（きじゅう）の銃身（じゅうしん）を見た。3-37-7-29「仲間（なかま）！」と、ペピーノは、こう言って一人で前へ進み、この第二（だいに）の歩哨（ほしょう）に向かって何やら低（ひく）い声（こえ）でささやいた。3-37-7-30すると、その歩哨は、前の歩哨と同じように、この夜の客人（きゃくじん）に向（む）かって、路（みち）をつづけてよいという合図（あいず）をした。 |
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| 3-37-7-31歩哨のうしろは、およそ二十段（にじゅうだん）ばかりの階段（かいだん）になっていた。フランツと伯爵とは、その階段を下（お）り、地獄（じごく）の辻（つじ）とでもいったようなところに出た。3-37-7-32五筋（ごすじ）の道（みち）が星の光のように四方（しほう）に走って行っているのと、柩（ひつぎ）の形をした龕（がん：岩壁を掘りあけて仏像などを安置した所：死体を入れる箱）が重（かさ）なり合うように壁の面に掘られているのが、いよいよ、塋窟（えいくつ：カタコンブ）のなかにはいったことを教（おし）えていた。 3-37-7-33どれくらいの広さがあるかわからないこうした穴の中には、それでも昼間のあいだはいくらかの日影（ひかげ）が射しこむのだった。3-37-7-34伯爵は手をフランツの肩（かた）に置いて、3-37-7-35「どうです、山賊（さんぞく）どもが休息（きゅうそく）しているところを見たいとお思いになりませんか？」と、言った。3-37-7-36「もちろん見たいですな」と、フランツが答えた。3-37-7-37「そんならごいっしょにいらっしゃい・・・・ペピーノ、炬火を消すんだ」。3-37-7-38ペピーノは言われたとおりにした。 3-37-7-39フランツと伯爵とは深（ふか）い闇のなかに取り残された。3-37-7-40だが、二人の前およそ五十歩ばかりのところに、ペピーノが炬火を消してからさらに明らかに、何かしら赤味（あかみ）を帯びた光が壁（かべ）にそって踊（おど）りつづけていた。3-37-7-41二人はしずかに進んでいった。3-37-7-42伯爵は、さも闇のなかを見ることのできるふしぎな力（ちから）がありでもするように、フランツの案内（あんない）をして進んでいった。3-37-7-43フランツもまた、道しるべをしてくれるような明るみの方（ほう）へ近づいて行くにつれ、道がだんだんはっきり見えてきた。 3-37-7-44三つのアーケード（ａｒｃａｄｅ：アーチ形の屋根をもつ建造物。また、その下の通路）、その真中（まんなか）の一つは扉（とびら）のような役目（やくめ）をしていたが、二人はそこを通り抜（ぬ）けた。3-37-7-45このアーケードは一ぽう（いっぽう）、伯爵とフランツのいる廊下のほうへ開き、他の一方は、前に話したような龕（がん）で取巻かれた方形（ほうけい）の大きな室（しつ）へ通（つう）じていた。3-37-7-46その室の真中（まんなか）には、昔（むかし）祭壇（さいだん）になっていたと思われる四つの石が立っており、その上には十字架が載せられていたので、すぐにそれと見てとれた。 3-37-7-47柱（はしら）の根元（ねもと）に置かれているただひとつのランプは、その青白い、チラチラする光で、蔭（かげ）になった二人の目の前にふしぎな光景を照らし出していた。3-37-7-48腰（こし）をおろした一人の男は、この柱に肱（ひじ）をあずけながら、アーケードの方へ背（せ）を向けて何かしきりに読みふけっていた。3-37-7-49二人は、アーケードの入口（いりぐち）からはいってきて、その男の姿を見たのだった。3-37-7-50そして、それこそ一団（いちだん）の首領（しゅりょう）ルイジ・バンパその人だった。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/5/20-21