３７（４） ３７（４）
| 3-37-4-1伯爵は、フランツがまだ見たことのなかった、すっかり布団（ふとん）椅子（いす）で取巻（とりま）かれた小（ちい）さな書斎（しょさい）のなかにいた。3-37-4-2伯爵は、彼を出迎（でむか）えに立ってきた。3-37-4-3「これはこれは、よくお出かけくださいました」と、伯爵は言った。3-37-4-4「ことによったら夜食（やしょく）を共（とも）にしに来てくだすったのではありませんか？3-37-4-5そうだとしますとじつに嬉（うれ）しいわけですが」。 3-37-4-6「いや、今晩（こんばん）は少し重大（じゅうだい）な事件（じけん）につきまして御相談（ごそうだん）にあがりました」。3-37-4-7「事件ですと？」と、伯爵は平常（へいじょう）どおりの深（ふか）い眼差（まなざ）しでフランツを見つめた。3-37-4-8「いったいどうした事件です？」。3-37-4-9「他（ほか）にどなたもおりますまいか？」。3-37-4-10伯爵は、戸口（とぐち）のところへ行って見た。 3-37-4-11「二人（ふたり）きりです」と、伯爵は言った。3-37-4-12フランツは、アルベールの手紙（てがみ）を差出（さしだ）した。3-37-4-13「お読みください」。3-37-4-14伯爵は、手紙を読んだ。3-37-4-15そして、「おお！おお！」と、言った。3-37-4-16「追（お）って書（が）きにお気がおつきになりましたか？」。3-37-4-17「わかります。3-37-4-18『もし朝の七時までに、四千ピアストルの金が届かなかったら、アルベール・ド・モルセール子爵はもうこの世の人ではありませんぞ。ルイジ・バンパ』」。 3-37-4-19「どうお考えになりますか？」と、フランツがたずねた。3-37-4-20「要求（ようきゅう）してきた金をお持ちですか？」。3-37-4-21「ええ、ただし八百ピアストルだけ足（た）りません」。3-37-4-22伯爵は机（つくえ）を開（あ）け、金貨（きんか）がいっぱい入っている引出（ひきだ）しを開けた。3-37-4-23そして、「わたし以外（いがい）に、誰（だれ）にも御相談なさらなかったことでしょうな？」と、言った。3-37-4-24「ごらんのとおりです。3-37-4-25わたしは真っ直ぐ（まっすぐ）こちらに上（あ）がりました」と、フランツが言った。3-37-4-26「光栄（こうえい）です。さ、お取（と）りください」。3-37-4-27こう言いながら、彼はフランツに、引出しの中からいるだけの金を取ってほしいと目くばせした。 3-37-4-28「いったいこの金を、ほんとにルイジ・バンパにやらなければならないのでしょうか？」と、フランツが、『じっ』と伯爵を見つめて言った。3-37-4-29「何を言っておいでです！」と、伯爵は言った。3-37-4-30「お考えになってごらんなさい。3-37-4-31追って書きはきわめて明確（めいかく）です」。3-37-4-32ですが、もしあなたがちょっと御智慧（おちえ）をおかしくだすったら、取引（とりひき）を『もっと』簡単（かんたん）にする方法（ほうほう）が見つかりそうに思われますが」と、フランツが言った。3-37-4-33「と、おっしゃると？」と、伯爵は驚（おどろ）いて言った。 3-37-4-34「たとえばです、ごいっしょにルイジ・バンパに会いに行きます。3-37-4-35そうしたら、きっとアルベールの自由（じゆう）を拒（こば）んだりはしないだろうと思いますが」。3-37-4-36「わたしの顔（かお）でとおっしゃいますか？3-37-4-37だって、このわたしが、どうしてあんな山賊（さんぞく）に勢力（せいりょく）なんぞありましょう？」。3-37-4-38「だってあなたは、あの男（おとこ）に、忘（わす）れることのできない助力（じょりょく）をお与（あた）えでした」。3-37-4-39「とおっしゃるのは？」。3-37-4-40「あなたは、ペピーノの命（いのち）を助けておやりでした」。3-37-4-41「おお！おお！それを誰からお聞きでした？」。 3-37-4-42「それはどうでもかまいますまい。3-37-4-43わたしはちゃんと存（ぞん）じています」。3-37-4-44伯爵は、ちょっとの間（あいだ）黙（だま）りこみ、眉根（まゆね）に皺（しわ）をよせていた。3-37-4-45「では、わたしがバンパに会いに行ったら、あなたもいっしょにおいでですか？」。3-37-4-46「ごいっしょに行って、大（たい）して御迷惑（ごめいわく）でなかったら」。 3-37-4-47「よろしい。3-37-4-48天気（てんき）もよし、ローマ郊外（こうがい）へ出てみるのもちょっと悪（わる）くないでしょう」。3-37-4-49「得物（えもの：ピストルなどの武器）を持っていきますか？」3-37-4-50「そんなものがいりますものか」。3-37-4-51「金は？」。3-37-4-52「いりません。手紙を持ってきた男はどこにいます？」。3-37-4-53「往来（おうらい）です」。3-37-4-54「返事（へんじ）を待（ま）っているのですね？」。3-37-4-55「そうなのです」。3-37-4-56「どこへ行けばいいのか、ひとつ呼（よ）んで聞きましょう」。 3-37-4-57「それはだめです。3-37-4-58中へはいろうとしないのですから」。3-37-4-59「それは、あなたのお室のことでしょう。3-37-4-60ここへだったら別に『いざこざ』はありますまい」。3-37-4-61伯爵は往来へ向かった書斎の窓（まど）のそばへ行った。3-37-4-62そして、ある特殊（とくしゅ）な吹き方で口笛（くちぶえ）を鳴（な）らした。3-37-4-63と、外套（がいとう）を着た男は壁（かべ）から離れて、往来の真中（まんなか）まで進み出た。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/5/14