３７（１０）ブラチヤノ邸(てい)に急(いそ)げ！

3-37-10-1首領（しゅりょう）は、この光景（こうけい）をあきれかえったようすでながめていた。3-37-10-2彼は、これまで捕（とら）えられたもののすべてが、自分の前にふるえおののくのを見馴（みな）れていた。3-37-10-3ところが、ここに、きわめてのんきな例外（れいがい）をなしている男がいたのだ。3-37-10-4一ぽう（いっぽう）フランツは、たとえ相手（あいて）が山賊（さんぞく）であろうと、アルベールがよくフランス人としての名誉（めいよ）を守り続けてくれたことを嬉（うれ）しく思った。3-37-10-5「アルベール、」と、フランツは言った。 3-37-10-6「君（きみ）さえ急（いそ）いで支度（したく）をしたら、今夜、まだトルロニヤの邸へいくだけの時間があるぜ。3-37-10-7そうしたら、君はそのギャロップの続（つづ）きが踊れるわけだ。3-37-10-8一ぽう（いっぽう）、今度（こんど）のことで、いかにも紳士的（しんしてき）にふるまってくれたバンパ君（くん）にたいし、今後（こんご）恨（うら）みを抱（だ）かずにすむだろうよ」。3-37-10-9「ほんとだ！」と、アルベールは言った。3-37-10-10「君の言うとおりだ。3-37-10-11二時には着けるな。3-37-10-12バンパ閣下（かっか）、」と、アルベールは言葉（ことば）をつづけた。3-37-10-13「お暇（ひま）をいただくには、この上（うえ）踏む（ふむ：本は履む）べき方式（ほうしき）がございましょうか」。 3-37-10-14「いや、なに」と、山賊が答えた。3-37-10-15「もう風のように御自由ですよ」。3-37-10-16「では一つ陽気（ようき）にやってのけましょう。3-37-10-17さあみなさん、まいりましょう！」。3-37-10-18こう言いながら、アルベールは、フランツと伯爵との先に立って階段を下り、方形（四角形の別名）の大きな室を通りぬけた。3-37-10-19山賊どもは、みな帽子（ぼうし）を手にして立っていた。3-37-10-20「ペピーノ」と、首領は言った。3-37-10-21「炬火（きょか：たいまつ）を渡（わた）せ」。 3-37-10-22「や、どうしようと言うんだね？」と、伯爵が言った。3-37-10-23「お送りいたしましょう」と、バンパが言った。3-37-10-24「閣下にお尽（つ）くし申（もう）すほんのわたくしの気持（きもち）だけでございます」。3-37-10-25そう言いながら、バンパは火のともった（火のついた）炬火をペピーノの手から受取り、客人（きゃくじん）たちの前へ立って歩きはじめた。3-37-10-26それは、卑屈（ひくつ）なことをする召使（めしつかい）のようすとは違ってまるで大使（たいし）たちの前をゆく王（おう）とでもいったようだった。 3-37-10-27戸口（とぐち）までくると、バンパは頭をさげた。3-37-10-28「伯爵、も一度お詫（わ）びを申しあげます。3-37-10-29今日（きょう）のことについてはもう何もお気におとめになりますまいな？」。3-37-10-30「とめるものかね、バンパ君（くん）、」と伯爵は言った。3-37-10-31「君（きみ）は、いかにも紳士（しんし）らしく君の間違（まちが）いを償（つぐな）ったじゃないか。3-37-10-32間違いをしてくれてよかったくらいだよ」。3-37-10-33「お二方（ふたかた）、」と、首領は二人の青年のほうへ向かって言った。 3-37-10-34「あまり楽（たの）しいお誘いではありませんが、もしまたお訪（たず）ねくださろうという思召（おぼしめ）しがありましたら、わたくしのおりますところならどこであろうと、いつでも喜（よろこ）んでお待（ま）ちします」。3-37-10-35フランツとアルベールは会釈（えしゃく）をした。3-37-10-36伯爵が先へ立った。3-37-10-37アルベールがそれにつづき、そしてフランツは後に残った。3-37-10-38「何かおたずねになることでもおありのようですが？」と、微笑（びしょう）を浮（う）かべながらバンパが言った。 3-37-10-39「じつのところそうなのです」と、フランツが答えた。3-37-10-40「わたしたちがやってきたとき、あんなに熱心（ねっしん）にい読（よ）んでのおいでだった本（ほん）は、あれはいったいどういう本でした？」。3-37-10-41「ガリア征討記（せいとうき：著者註：シーザーの書いたもの）で」と、首領が言った。3-37-10-42「わたしの愛読書（あいどくしょ）でございまして」。3-37-10-43「どうした！3-37-10-44こないのか？」と、アルベールがたずねた。3-37-10-45「いくよ、」いくよ」と、フランツが応（こた）えた。3-37-10-46そう言いながら、自分も風穴（かざあな）から外へ出た。3-37-10-47一同（いちどう）は野原（のはら）の中を歩きはじめていた。 3-37-10-48「や、失敬（しっけい）！」と、アルベールは、立ち戻りながら言った。3-37-10-49「失礼（しつれい）していいですね？」こう言ってバンパの炬火で、自分の葉巻（はまき）に火をつけた。3-37-10-50「さて伯爵」と、アルベールは言った。3-37-10-51「できるだけ急いでまいりましょう！3-37-10-52ぜひ今夜（こんや）はブラチヤノ侯爵のところへいきたいのですから」。3-37-10-53馬車は、前に乗り捨てたところに待っていた。3-37-10-54伯爵はないか一言（ひとこと）アリに言った。3-37-10-55馬はひた走りに走りだした。 （読者註） ブラチヤノ侯爵とトルロニヤとの関係がはっきりしない。同一人物で、ブラチヤノは、フランツ・デピネーとフランツ・ケネルのように、侯爵名なのだろうか。

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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/5/22