３６（９） ３６（９）
| アルジャンチナ劇場の場所 |
| 3-36-9-1「どう思う？」と、アルベールは、フランツの読み終わるのを待って言った。3-36-9-2「どう思うね？」。3-36-9-3「どうやら、」と、フランツが答えた。3-36-9-4「なかなか愉快（ゆかい）になるらしいな」。3-36-9-5「ぼくもそう思うんだ」と、アルベールは言った。3-36-9-6「ひょっとしたら、君にひとりでブラチヤノ侯爵（こうしゃく）の舞踏会（ぶとうかい）にいってもらわなければなりはしまいか、それが心配（しんぱい）だが」。3-36-9-7フランツとアルベールは、その朝、有名（ゆうめい）なローマの銀行家（ぎんこうか）からの招待（しょうたい）を受けていた。 3-36-9-8「気をつけたがいいぜ、アルベール、」と、フランツが言った。3-36-9-9「貴族社会はすっかり侯爵のところへ出かけるんだ。3-36-9-10で、君（きみ）の見知（みし）らぬ女にしても、もしほんとに貴族社会の人だったら、どうしてもそこへ行かなければならないはずだから」。3-36-9-11「来（こ）ようが来（こ）まいが、僕（ぼく）の彼女（かのじょ）にたいする考えに変（かわ）りはないさ」と、アルベールはつづけて言った。3-36-9-12「手紙を読んだね？」。3-36-9-13「読んだよ」。3-36-9-14「そんなら、も一度読み返してみるがいいさ。3-36-9-15筆跡（ひっせき）を見るんだ、文章（ぶんしょう）や綴（つづ）りに間違いがあるかどうか探してみろよ」。3-36-9-16なるほど筆跡（ひっせき）もみごとで、それに綴りにもなんら誤（あやま）りがなかった。 3-36-9-17「君はじっさい幸運児（こううんじ）だよ」と、フランツは、も一度その手紙をアルベールにもどしながら言った。3-36-9-18「笑いたいだけ笑うがいいや。3-36-9-19気がすむだけ茶化（ちゃ）すがいいや」とアルベールは言った。3-36-9-20「僕は恋（こい）しているんだよ」。3-36-9-21「やれやれ！3-36-9-22とんでもないことを言うじゃないか」と、フランツは叫んだ。3-36-9-23「どうやらブラチヤノ侯爵の舞踏会に一人で出かけるばかりでなく、フィレンツェにも一人で帰らなければならないことになりそうだね？」。 3-36-9-24「こうなのさ、もしもあの女が、その顔の美しいように心も親切（しんせつ）だったら、宣言（せんげん）しとくよ、僕は六週間ローマにいるからね。3-36-9-25僕はローマが大好きなんだ。3-36-9-26それに、僕は考古学（こうこがく：読者註：遺物や遺跡により、古い時代の文化・生活などに関することを研究する学問）についてとても興味を持ってるんだから」。3-36-9-27「『じょうだん』じゃない、このさき一度か二度こんな目にあえば、君にしても、どうやらアカデミー・デ・ザンスクリプション・エ・ベル・レットル（著者註：文芸翰林院）の会員になれないこともなさそうだな」。（心ならずも考古学大家になるであろうことを皮肉ったもの）。3-36-9-28アルベールは、自分が当然アカデミーにはいる資格を持っていることについて、まじめに一論争（ひとろんそう）やってみようかと思った。 3-36-9-29だが、そこへ食事の用意のできたことが知らされた。3-36-9-30そして、アルベールの恋愛（れんあい）は、必ずしも食欲（しょくよく）と相反（あいはん）してはいなかった。3-36-9-31彼は大急（おおいそ）ぎで友だちとともに食卓（しょくたく）に坐（すわ）り議論（ぎろん）のほうは後（あと）まわしにした。3-36-9-32食事がすむと、二日（ふつか）以来（いらい）姿を見せなかったモンテ・クリスト伯の来訪（らいほう）が伝（つた）えられた。3-36-9-33亭主の語るところによると、伯爵は用事が出来てチビタ・ベキヤへゆかれ、前日（ぜんじつ）の晩そこを出発して、いまからわずか一時間前に帰って来られたということだった。 3-36-9-34伯爵はじつにりっぱな紳士（しんし）だった。3-36-9-35或（ある）いはこれまで二度三度、何かの場合に苦（にが）い言葉のうちに響（ひび）きわたらせはしたものの、その辛辣（しんらつ）な癇（かん：読者註：感情が激しく、すぐかっとする気質）を目ざめさせるような機会を持たなかったためと言おうか、彼はほとんど尋常人（じんじょうじん）と変わりがなかった。3-36-9-36彼は、フランツにとってまったく一つの謎（なぞ）だった。3-36-9-37伯爵として、この若い旅人（たびびと）が自分の顔を知っていることに気がつかないはずがなかった。3-36-9-38それでいて、二人が改めて顔を合わせて以来（いらい）、伯爵は、彼とどこかで会ったことなど、口（くち）に出そうともしなかった。3-36-9-39一ぽう（いっぽう）フランツのほうも、最初（さいしょ）会ったときのことをなんとか匂（にお）わせようと思いながらも、これほど親切にしてくれる相手（あいて）を不愉快（ふゆかい）にさせてもと思って、それを差（さ）し控（ひか）えていた。 3-36-9-40そして、伯爵と同じように、ただ黙（だま）って控（ひか）えていた。3-36-9-41伯爵は、二人の青年がアルジャンチナ劇場に桟敷（さじき）を取ろうとし、すっかり売切（うりき）れになったという返事（へんじ）を受取（うけと）ったことを聞いた。3-36-9-42そして、自分の桟敷の鍵（かぎ）を持ってきてくれたのだった。3-36-9-43少なくも、それが彼の訪問（ほうもん）の表面上（ひょうめんじょう）の理由（りゆう）だった。3-36-9-44フランツとアルベールとは、伯爵がゆけなくなってはと思い、なんとかして辞退（じたい）しようとした、3-36-9-45だが伯爵は、今夜（こんや）はパーリ劇場へゆくことになっているので、もし二人が利用してくれなかったら、アルジャンチナ劇場の桟敷はまったくむだになってしまうのだと言った。3-36-9-46この言葉を聞くと、二人の青年は喜んで厚意（こうい）を受ける決心（けっしん）をした。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/5/06