３６（６） ３６（６）
| 3-36-6-1「さあ、」と、伯爵夫人は笑いながら言った。3-36-6-2「いまにおわかりになりますわ。3-36-6-3あたしの言った吸血鬼（きゅうけつき）は、きっと成金（なりきん）といった手合（てあい）の人で、儲（もう）けたお金（かね）の罪滅（つみほろ）ぼしをしようというんでしょう。3-36-6-4そして、ロスチャイルドさんなんかと間違（まちが）えられないため、わざわざララ（バイロンの詩に現われる主人公。その陰惨な風姿はこの詩人が、みずからの厭世観を託せるものなりという）のような眼つきをして。3-36-6-5それであなた方（がた）、あの方（かた）にもお会いになりました？」。 |
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| 3-36-6-6「誰です、あの方って？」と、フランツは微笑（びしょう）を浮（う）かべながら問（と）い返（かえ）した。3-36-6-7「昨日（きのう）のきれいなギリシャのかた」。3-36-6-8「いいえ。でも、そのひとの弾（ひ）いている一絃琴（いちげんごと：ギユズラ）の音が聞こえたように思いました。3-36-6-9でも、姿はぜんぜん見えませんでした」。3-36-6-10「見えなかったというのは、フランツ、」と、アルベールが言った。3-36-6-11「ふしぎに思わせようと思ってのことなのさ。3-36-6-12あの白い綾布（りょうふ：ダマス）を張った窓にいた青いドミノ姿の人を、君はいったい誰だと思うね？」。3-36-6-13「その白い綾布を張った窓って、いったいどこにありましたの？」と、伯爵夫人がたずねた。 3-36-6-14「ロスポリ楼です」。3-36-6-15「では、伯爵はロスポリ楼に三（みっ）つも窓をお借（か）りでしたの？」。3-36-6-16「そうなんです。3-36-6-17あなたは、クール町をお通りになりましたか？」。3-36-6-18「もちろんですわ」。3-36-6-19「それなら、黄色い綾布を張った二つの窓と赤い十字架をつけた白い綾布を張った窓をごらんでした？3-36-6-20あの窓三つが伯爵のでした」。3-36-6-21「ああら！ではあの方はやっぱり成金（なりきん：にわかに大金持ちになった者）ですわ！3-36-6-22ああした三つの窓が、謝肉祭の一週間、コルソで目抜（めぬき）きのロスポリ楼でどれくらいするとお思いになって？」。 3-36-6-23「ローマ貨でニ三百エキュ（３X２X１００X１０００＝６０万円ないし９０万円：今と比較してもきっちりは分からないが目安が必要）もしましょうか？」。3-36-6-24「ニ三千エキュ（６００万円）はいたしますわ」。3-36-6-25「なんですって！」。3-36-6-26「そして、あの方のすばらしい御収入（ごしゅうにゅう）は、みんなその島（しま）からあがりますの？」。3-36-6-27「島ですって？3-36-6-28島からは一銭（いっせん）だってあがりません」。3-36-6-29「では、どうしてそんな島をお買いだったのかしら？」。3-36-6-30「気まぐれですな」。3-36-6-31「では、ずいぶん変（かわ）った方（かた）ですの？」。3-36-6-32「見受（みう）けたところ、かなり変人（へんじん）のようでもあります。3-36-6-33もしこれがパリにいて、芝居（しばい）に出入（でい）りしてでもいる男だったら、『いたずらもの』がお芝居をやっているのか、それとも文学（ぶんがく）で頭が変になった男なのか、はっきり申し上げられましょうが。3-36-6-34事実、今朝もディディエかアントニー（デュマの作品中の人物）そこのけといった機智（きち）の閃（ひらめ）きをニ三（にさん）べん見せられました」。 3-36-6-35こうしたところへ、新（あら）たに訪（おとづ）れた客があった。3-36-6-36そこで、風習（ふうしゅう）に従って、フランツは客人（きゃくじん）のために自分の席（せき）を譲（ゆず）った。3-36-6-37このことは、席を変えたというだけでなく、会話（かいわ）の主題（しゅだい）までも変えさせた。3-36-6-38一時間の後、二人の青年はホテルに帰ってきた。3-36-6-39すでに亭主は、二人の明日（あす）の変装（へんそう）のことを考えてくれていて、自分の心（こころ）きいた働きぶりには、きっと御満足（ごまんぞく）いただけるにちがいないと言ってくれた。 |
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ページ制作者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/5/04