３６（４） ３６（４）
| 3-36-4-1フランツとアルベールは、ちょうどそのとき、マラテ町の前にいた。3-36-4-2馭者（ぎょしゃ）はなにも言わずにその町へ入り、ロスポリ楼にそってスペイン広場まで行き、ホテル（亭主パストリーニの宿）の前にきてとまった。3-36-4-3フランツは、まず第一に伯爵のことをたずねた。3-36-4-4そして、時間どおり伯爵を迎えに行けなくて失礼（しつれい）したと言った。3-36-4-5ところが亭主（ていしゅ）は、モンテ・クリスト伯爵は、御自分のため、もう一台馬車を御注文になり、その馬車が四時にロスポリ楼へお迎えに行ったから、心配する必要はないと言った。 3-36-4-6亭主は、伯爵から、二人の青年にアルジャンチナ劇場（げきじょう）の自分の桟敷（さじき）の鍵（かぎ）を渡（わた）すようにと頼（たの）まれていた。3-36-4-7フランツは、アルベールのつごうをきいてみた。3-36-4-8だが、アルベールは、芝居（しばい）へいったりする前に、実行しなければならない大きな計画を立てていた。3-36-4-9したがってその返事をする代わりに、仕立屋（したてや）を見つけてもらえるかどうかと亭主にたずねた。3-36-4-10「仕立屋でございますって？」と、亭主は聞き返した。3-36-4-11「なんの御用でございます？」。3-36-4-12「明日までに、できるだけ粋（いき）なローマの百姓の衣裳（いしょう）をこしらえさせるんだ」と、アルベールが言った。3-36-4-13亭主は頭（あたま）を振（ふ）った。 3-36-4-14「明日までに衣裳を二枚こしらえさせるとおっしゃいますか？」と、叫んだ。3-36-4-15「いや御前（ごぜん：あなたさま）、ごめんくださいまし、これこそ、その、フランスふうな御注文（ごちゅうもん）と申すもので。3-36-4-16お召物（めしもの）を二枚！しかも、これから一週間というもの、たとい一着に一エキュ（３Ｘ１０００円）出すとおっしゃても、チョッキにボタンを六（むっ）つ附けてくれる仕立屋さえもないときなんでございますよ！」。3-36-4-17「では、どうしても註文どおりの衣裳はあきらめなければならないかな？」。3-36-4-18「いいえ、ただそうした衣裳の出来合い（既製服のこと）があるだろうと思うのでして。3-36-4-19おまかせくださいまし。3-36-4-20明日（あす）お目覚（めざ）めになりましたら、御満足のいくように、帽子、お召物（めしもの）、キュロットを揃（そろ）えておきましょうから」。 3-36-4-21「では、」と、フランツはアルベールに言った。3-36-4-22「その衣裳のことは亭主に一任（いちにん）することにしようじゃないか。3-36-4-23いままでにも、なかなか才覚（さいかく）のあるらしいところを見せていた。3-36-4-24では、ゆっくり晩飯（ばんめし）をやるとしよう。3-36-4-25それがすんだら『アルジェリアのイタリー女』を見にいこうや」。3-36-4-26「『アルジェリアのイタリー女』、よかろう」とアルベールが言った。3-36-4-27「だが亭主、僕にしてもこの方（かた）にしても、」と、言いながらフランツのほうをしめして、「いま頼んだ衣裳を、明日（あす）手に入れることに非常（ひじょう）に重（おも）きをおいているんだからな」。3-36-4-28亭主は、も一度（いちど）二人に向かって、御心配（ごしんぱい）御無用（ごむよう）、思召（おぼしめ）しどおりのものを手に入れましょうからと言った。 3-36-4-29それを聞いたフランツとアルベールは、道化（どうけ）の衣裳をぬごうと思って室（しつ）へいった。3-36-4-30アルベールは、それを脱（ぬ）ぎ捨（す）ててから、深（ふか）い心をこめて、菫（すみれ）の花束（はなたば）を抱（だ）きしめた。3-36-4-31それこそは、翌日（よくじつ）自分を見わけてもらうためのものなのだった。3-36-4-32二人の青年は食卓（しょくたく）についた。3-36-4-33だが、食事をしながらも、アルベールは、宿（やど）のコック（料理人）とモンテ・クリスト伯のコックとの腕の相違（そうい）に気がつかないではいられなかった。3-36-4-34フランツは、伯爵にたいして、あまりいい感じをもっていないらしかったが、事実はいかんともなしがたく、比較（ひかく）はどうも亭主のほうに勝味（かちみ）のないことを承認せざるを得なかった。3-36-4-35デザートにはいったとき、召使（めしつかい）は何時（なんじ）に馬車が入用（にゅよう）であるかたずねに来た。 3-36-4-36アルベールとフランツは、あまり無作法（ぶさほう）になってはと思いながら、互いに顔を見合わせた。3-36-4-37それを召使は見て取った。3-36-4-38「モンテ・クリスト伯爵さまは、」と、召使が言った。3-36-4-39「一日中（いちにちじゅう）馬車をお二方（ふたかた）に御用立（ごようだ）てするようにしっかりお申しつけになりました。3-36-4-40で、どうか、御遠慮なく、御自由にお使いくだすってよろしいのでございます」。3-36-4-41二人の青年は、何から何まで伯爵の厚意（こうい）に甘（あま）えることに決心して、馬車に馬をつけるようにたのんだ。3-36-4-42そして二人は、数度（すうど）の戦（たたか）いにいくぶん皺（しわ）になった昼の衣裳を、夜の衣裳に着かえにいった。 |
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ページ制作者： （ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書
2017/5/01