３４（４）密談（３）ロスポリ楼の窓に

2-34-4-1「かんたんだよ。わたしはロスポリ楼（ろう）のはずれの窓（まど）を三つ借（か）りておいた。2-34-4-2延期（えんき）が成功（せいこう）したあかつきは、角（かど）のところの二つの窓に黄色い綾布（あやぬの：ダマス）を張ることにしよう。2-34-4-3そして真中（まんなか）の窓には、白い綾布に赤の十字架をつけて張ることにする」。2-34-4-4「けっこうです。2-34-4-5そして恩典（おんてん）の命令（めいれい）を、誰の手でお渡しになって下さいます？」。 2-34-4-6「わたしのところへ苦業会員（くぎょう・かいいん：ペニタン：一つの宗教団体に属するもの）の服装（ふくそう）をした男をよこしてもらおう。2-34-4-7その男に渡すから。2-34-4-8そういう服装をしていたら、断頭台の下まで行って、無事に書類を教団の管長に渡すことができるだろうから。2-34-4-9そして、管長がそれを首斬り役人に渡すのだ。2-34-4-10それまでに、このことをペピーノにも知らせておいてくれたまえ。2-34-4-11怖ろしさのあまり死んでしまったり、でなければ気がちがたっりしないように。2-34-4-12そんなことになりでもしたら、『ものいりがむだ』になるわけだから」。 2-34-4-13「ちょっと、」と、男は言った。2-34-4-14「わたくしは、まったく一身（いっしん）をお捧（ささ）げしております。2-34-4-15このことをおわかりになっていただけますな？」。2-34-4-16「そうあってほしいと思っているよ」。2-34-4-17「そこでです。2-34-4-18もしペピーノを助けていただけましたら、これからさき、もう身を捧（ささ）げるどころの話でなく、まったくの服従（ふくじゅう）をお誓いします」。2-34-4-19「あんまり安受（やすう）け合いはしないがいいぜ。2-34-4-20そのことを思い出してもらわなければならないことがあるかも知れないから。2-34-4-21君の手を借りなければならないようなことがありそうだからな・・・・」。2-34-4-22「そんなときこそ、閣下（かっか）、いまと同じく、いつなんどきでも参りますから。2-34-4-23たとい世界の果てにおいででしても、ただ一言（ひとこと）『こうしてくれ』と言ってよこしてくださいましたら。2-34-4-24誓（ちか）って・・・・」。 2-34-4-25「しっ！」と、見知らぬ男が言った。2-34-4-26「音がする」。2-34-4-27「炬火（きょか：たいまつ）をつけて、コリゼーを見て歩いている旅人です」。2-34-4-28「二人（ふたり）いるところをわざわざ見せる必要もあるまい。2-34-4-29案内者のスパイどもは、君の顔を見覚えているにちがいないから。2-34-4-30それに、君の友情（ゆうじょう）がどんなにりっぱなものであっても、二人がつきあっているところを見られては、いささかわたしの信用（しんよう）にかかわる恐れもないとは言えない」。2-34-4-31「で、延期（えんき）ができましたら？」。 2-34-4-32「真中（まんなか）の窓に赤い十字架をつけた綾布（あやぬの）を張らせる」。2-34-4-33「だめだったときは？・・・・」。2-34-4-34「三（みっ）つとも黄色（きいろ）い綾布」。2-34-4-35「そのときは？・・・・」。2-34-4-36「そのときこそは、思うぞんぶん匕首（あいくち）を閃（ひらめ）かせてあばれてやるのさ。2-34-4-37わたしも拝見（はいけん）に行っているから」。2-34-4-38「では閣下、失礼（しつれい）します。2-34-4-39どうか御信用なすって下さい」。2-34-4-40こう言ったかと思うと、トランステベレ姿の男は階段を通って消えてしまった。2-34-4-41そして、見知らぬ男のほうは、さらに深く外套（がいとう）に顔を包み、フランツから二足（にそく）ばかりのところを通って、外側の階段から闘技場のなかへ下（お）りて行った。 2-34-4-42それから間（ま）もなく、フランツには、円屋根（まるやね：ドーム）の下に響きわたるわが名が聞こえた。2-34-4-43呼んでいるのはアルベールだった。2-34-4-44彼は、返事をするに先だって、男が遠くへ行ってしまうのを待っていた。2-34-4-45たとい二人の顔は見えなかったにせよ、その話の一言一句（いちごん・いっく））も聞き洩らさなかったことを相手にしれせたくなかったからだった。

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引用者：2016/9/29、10/9　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書