３４（１１）モンテ・クリスト伯爵

2-34-11-1「で、このすばらしい計画を誰かに知らせてやったんかい？」。2-34-11-2「亭主（ロンドン・ホテルのパストリーニ）に知らせてやったのさ。2-34-11-3家へ帰るとすぐに呼んで説明してやった。2-34-11-4そんなことはおやすい御用（ごよう）と言ってやがった。2-34-11-5僕は、牛の角（つの）を金色（きんいろ）に塗（ぬ）らしてやりたかった。2-34-11-6だが、それには三日（みっか）かかるという。2-34-11-7この贅沢（ぜいたく）だけは思いきらなければならなかった」。 2-34-11-8「で、やっこさんどこへ行った？」。 2-34-11-9「誰さ？」。 2-34-11-10「亭主さ」。 2-34-11-11「探しに行った。2-34-11-12明日になったら手おくれだろうから」。 2-34-11-13「で、今夜（こんや）返事（へんじ）が聞かれるわけだな？」。 2-34-11-14「それを待ってるっていうわけなんだ」。 2-34-11-15ちょうどこのとき、室の戸が開き、そこから亭主が顔をのぞけた。 2-34-11-16「Ｐｅｒｍｅｓｓｏ？（イタリー語、「はいってもおよろしゅうございますか」）」と、彼は言った。 2-34-11-17「もちろん！」と、フランツが叫んだ。 2-34-11-18「どうだった！」と、アルベールが言った。 2-34-11-19「車と牛が見つかったか？」。 2-34-11-20「それどころではございません」と、亭主はすっかり上機嫌（じょうきげん）だった。 2-34-11-21「待（ま）て亭主、気をつけろよ」と、アルベールが言った。2-34-11-22「果報（かほう）すぎると魔（ま）がさすぞ」。2-34-11-23「どうか閣下、一つ手前（てまえ：自分のこと）を御信用（ごしんよう）くださいまして」と、呑（の）みこみ顔で亭主は言った。2-34-11-24「ところで、いったいどういうんだ？」と、今度はフランツが引き取ってたずねた。2-34-11-25「あの、」と、亭主は言った。2-34-11-26「同じ階（かい）に、モンテク・リスト伯爵がおいでのことを御存じでしょうか？」。 2-34-11-27「知ってるだろうさ」と、アルベールが言った。2-34-11-28「その人のおかげで、僕たちはまるでサン・ニコラ・デュ・シャルドネ町の書生（しょせい）さんみたいな室を当てがわれたっていうわけなんだし」。2-34-11-29「じつはそれなんでございまして、伯爵は、お困りのことをお聞きになって、お馬車のなかに座席（ざせき）を二つ、それにロスポリ楼の窓にお席を二つさしあげたいとおっしゃいますんで」。2-34-11-30アルベールとフランツは、互（たが）いに目と目を見合わせた。 2-34-11-31「だが、」と、アルベールはたずねた。2-34-11-32「よその方（かた）、知らない方の、そうした言葉をお受けしてもいいものかな？」。2-34-11-33「そのモンテク・リスト伯（はく）って何者（なにもの）なんだ？」と、フランツがたずねた。2-34-11-34「シチリヤかマルタあたりの、すばらしくりっぱなお殿（との）さまで。2-34-11-35はっきりしたことは存じませんが、何しろボルゲーゼ家（け：ローマにおける名家、美術愛好をもって名あり）のお方のようにお上品（じょうひん）で、金鉱（きんこう）とでもいったような大金持（おおがねもち）でいらっしゃるんで」。 2-34-11-36「だが、」と、フランツはアルベールに言った。2-34-11-37「その人が、亭主の言うほどお上品な人だとしたら、招待（しょうたい）するにしてもほかに仕方（しかた）がありそうだな。2-34-11-38或いは手紙（てがみ）をよこすなり、或いは・・・・」。2-34-11-39ちょうどそのとき、戸が叩（たた）かれた。 2-34-11-40「おはいり」と、フランツが言った。2-34-11-41一分の隙（すき）もない粋（いき）な仕着せ（しきせ：主人の支給する着物）の召使（めしつかい）が、室（しつ）の入口（いりぐち）にあらわれた。

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引用者：2016/10/10　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
オリジナル教会・ささくら修道会・必読書