2-31-6-1「してみると、いまモンテ・クリスト島にいる連中(れんちゅう)とも、まんざら他人ではないわけだな?」。2-31-6-2「どうやらそういうわけでして。2-31-6-3船乗(ふなの)りどうしは、自由結社員(じゆう・けっしゃ・いん:フラン・マソン:フリーメーソンのフランス語読み)といったように、ちょっとした合図(あいず)で互いにそれとわかるんでして」。2-31-6-4「で、僕たちが上陸しても、べつに心配はないだろうか」。2-31-6-5「ぜったい。密輸入者たちは決して泥棒(どろぼう)ではございませんから」。2-31-6-6「だが、コルシカの山賊が二人いるって言ってたが・・・・」と、フランツは、あらかじめ、いろいろな危険を考えて言った。 2-31-6-7「ごじょうだんを!」と、ガエタノが言った。2-31-6-8「山賊にしても、やつらが悪いんではないんでして。2-31-6-9『おかみ』が悪いんでございますよ」。2-31-6-10「どうしてだな?」。2-31-6-11「それにきまっておりまさあ!2-31-6-12『やった』というので追っかけられているんでさあ。2-31-6-13まるで、コルシカ人には、持って生まれた復讐の性質(たち)っていうやつがないとでも思って!」。2-31-6-14「『やった』っていうのは、なんのことだね?2-31-6-15人を殺したとでもいうのかな?」と、フランツはたずねた。 2-31-6-16「『かたき』を殺したことなんで」と、船長は言った。2-31-6-17「それとこれとじゃ、まったくべつのことでさあ」。2-31-6-18「ではと!密輸入者たちと山賊たちのおせわになりに出かけるかな、」と、青年は言った。2-31-6-19「承知(しょうち)してくれるかしら?」。2-31-6-20「いたしますとも」。2-31-6-21「幾人(いくにん)いるんだ?」。2-31-6-22「四人(よにん)でございます。2-31-6-23それに、山賊が二人おりますから、つごう六人」。2-31-6-24「ようし!ちょうどこっちと同じ人数だ。2-31-6-25向こうの出かたが悪くても、力(ちから)にすれば五分(ごぶ)と五分だ。2-31-6-26やっこさんたちを取っておさえつけることもできよう。2-31-6-27では、いよいよモンテ・クリスト島へ出発だ」。 2-31-6-28「かしこまりました、御前。2-31-6-29ですが、念(ねん)のため、用心(ようじん)しておきたいと思いますが?」。2-31-6-30「さあさあどうぞ!2-31-6-31ネストール(ネストル:ホメロスのイリアス、オデュッセイアなどに登場するギリシャの老王)のごとく賢明(けんめい)に、ユリッス(同じく、ギリシャの某将オデュッセウス、英語ではユリシーズ)のごとく慎重(しんちょう)なれ、だ。2-31-6-32「ゆるす段じゃない、大(おお)いにやってくれたまえ」。2-31-6-33「それでは、しずかに!」と、ガエタノが言った。2-31-6-34一同は口をつぐんだ。 2-31-6-35フランツのように、万事(ばんじ)についてあやまたぬ見かたのできる人間にとって、いまの状況(じょうきょう)は、なるほど危険(きけん)とは言えないかもしれないが、そこにはなにか重大なものがひそんでいるように思われた。2-31-6-36自分はいま、深い闇に包まれた海洋のただ中に独(ひと)りぽっちだ。2-31-6-37そして自分の周囲には、自分となんの馴染(なじみ)もない、したがって、自分にたいしてなんら忠義(ちゅうぎ)立てすべき理由も持っていない水夫たちがいるばかりだ。2-31-6-38しかもこの水夫たちは、自分が胴(どう)じめのなかに何千フランかの金を持っていることを知っている。2-31-6-39そして、欲しいわけでもないだろうが、少なくももの珍しそうな目で、自分の見事(みごと)な武器をじろじろながめている。 2-31-6-40一ぽう(いっぽう)自分は、そうした人間だけを連れて一つの島へ上って行こうとしている。2-31-6-41なるほど島の名こそは宗教的な感じを持っているが(モンテ・クリストはキリストの山の意)、そこに密輸入者や山賊がいるということであってみれば、カルバリオの丘(キリストが十字架につけられた丘)でキリストが受けたのと同様な待遇(たいぐう)以外(いがい)、どうも待っていてはくれないように思われる。2-31-6-42それに、昼のあいだは誇張(こちょう)としか思われなかったあの海底(かいてい)深く沈められた船の話も、夜になるにしたがい真実のことらしく思われてきた。2-31-6-43したがって、或いはとりこし苦労かもしれないが、この二つの危険に挟(はさ)まれながら、彼は、水夫たちから眼を離すことなく、手にしっかり銃を握(にぎ)りしめていた。 |
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引用者:2016/7/10、9/14 (笹倉宗)聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義