３１（２） ３１（２）
| 2-31-2-1友人（ゆうじん）と落ちあうまでにはまだ十分（じゅうぶん）余裕（よゆう）があったし、ローマの宿（やど）のほうの心配（しんぱい）もなかったフランツは、さっきの不猟（ふりょう）をとり戻すことのできるこの提案（ていあん）に賛成（さんせい）した。2-31-2-2彼が承諾（しょうだく）の意味の返事をすると、水夫たちは低い声でしばらく相談していた。2-31-2-3「おうい！」と、彼はたずねた。2-31-2-4「またなにか起こったのか？2-31-2-5故障（こしょう）が起こってだめにでもなったのかね？」。 2-31-2-6「いいえ、」と、船長は答えた。2-31-2-7「ただ御前（ごぜん：あなたさま）に、あの島が欠席裁判（けっせき・さいばん）でやられていることを申しあげておきませんと」。2-31-2-8「それはいったいなんのことだね？」。2-31-2-9「こうしたわけでございます。2-31-2-10モンテ・クリスト島は無人島（むじんとう）で、ときどきコルシカだの、サルジニヤだの、アフリカだのからやってくる密輸入者や海賊どもの休み場所になっております。2-31-2-11そこで、もしわたしどもがあの島にいたことがわかりますと、リボルノに帰ってから、どうしても六日間（むいか・かん）碇泊（ていはく）しなければならないことになっております」。 2-31-2-12「ちぇっ！すっかり話が変わってきたな！2-31-2-13六日間だ？2-31-2-14ちょうど神さまが世界をおこしらえになっただけの日数（にっすう）だな。2-31-2-15そいつは少し長過ぎるぜ、君」。2-31-2-16「が、御前のモンテ・クリスト島にいらしったということをいったい誰が申しましょう？」。2-31-2-17「ふん、僕（ぼく）でないことはたしかだね」と、フランツは叫んだ。2-31-2-18「わたしどもだって申しはしません」と、水夫たちが言った。2-31-2-19「よし、モンテ・クリスト島行き、やっつけよう」。 2-31-2-20船長は舵（かじ）の指図（さしず）をした。2-31-2-21船は船首（せんしゅ）を島へ向け、その方角（ほうがく）へ向かって走りはじめた。2-31-2-22フランツは作業の終るまで口（くち）を出さずにいたが、船が新しい進路を取り、帆が微風（びふう）を孕（はら）んで、四人の水夫の、三人は舳（へさき）に、おのおのその持場（もちば）へ帰って行ったとき、ふたたび話の口をきったのだった。2-31-2-23「なあ、ガエタノ、」と、彼は船長に向かって言った。2-31-2-24「いましがた、モンテ・クリスト島が海賊（かいぞく）のかくれ家（かくれが）になってると言ってたね。2-31-2-25それは、山羊（やぎ）とは一段（いちだん）と変った獲物（えもの）だと思うのだが」。 2-31-2-26「御前、まったくほんとうのことなので」。2-31-2-27「密輸入者のいることは知っていたが。2-31-2-28でも、アルジューの占領（せんりょう）と摂政政治（せっしょう・せいじ：レジヤンス）が滅びて以来（いらい）、海賊なんてものは、クーパア（アメリカの海洋小説家1789-1851）か、キャプテン・マリアット（イギリスの海洋小説家1792-1848）の小説のなかにしか出て来ないものとばかり思っていた」。 2-31-2-29「そりゃあ御前のお思いちがいで。2-31-2-30山賊（さんぞく）が法王（ほうおう）レオ十二世（じゅうにせい：在位1823-1829）さまのおかげで根絶（ねだ）やしになっていながら、毎日、ローマの入口まで出てきて旅人をおびやかしているのと同様、海賊だってちゃんといるんでございますよ。2-31-2-31六ヶ月になるかならないくらいでございますが、法王庁駐在（ちゅうざい：本は駐剳）のフランスの代理（だいり）大使（たいし）さまが、ベレットリのすぐ近くで追剥（おいはぎ：通行人をおどして衣服や金品をうばう者）にお会いになったことをお聞き及（およ）びじゃございませんか？ 2-31-2-32「聞いたよ」。2-31-2-33「でございましょう！2-31-2-34もし御前がわたしどものようにリボルノにお住みということでしたら、貨物を積んだ小船（こぶね）や、綺麗（きれい）なイギリスのヨットが、パスティヤか、ポルト・フェライヨか、チビタベキヤに着くはずなのに、いつまでたっても着かない、どうなったかもわからない、きっと、岩か何かにぶつかって壊（こわ）れたんだろう、などという噂をお耳になさることでしょうよ。2-31-2-35ところで、そういった船の出くわした岩というのは、舷（げん）の低い、幅の狭い船で、それには七八人（しち・はち・にん）の男が乗りこんでおり、暗い嵐の夜、草も生えていず、人も住んでいない小島のかげで、ちょうど強盗が森の片かげで駅馬車（えきばしゃ）を止めて物をとるように、前（まえ）申した船を不意（ふい）におそって、物を奪ってしまうからなんでございますよ」。 2-31-2-36「それならそれで、」と、フランツは船のなかに横になったまま口を開いた。2-31-2-37「そうした災難に遭（あ）った者が、なんだって訴（うった）えないんだ。2-31-2-38その海賊どもにたいして、なぜ、フランスか、サルジニヤか、トスカニヤの政府の復讐（ふくしゅう）を要求しないんだ？」。2-31-2-39「なぜかとおっしゃいますか？」と、ガエタノはほほえみながら言った。2-31-2-40「うむ、なぜなんだ？」。 |
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引用者：2016/7/10、9/13 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義