２４（６）スパダの紋章(もんしょう)輝く

2-24-6-1打ちおろす鶴はしは、かわるがわるに鉄と木の上を叩（たた）いていた。2-24-6-2彼は、炬火（きょか：たいまつのこと）を地に突（つ）きさして仕事にかかった。2-24-6-3たちまちのうちに、長さ三尺（９０Ｃｍ）、幅ニ尺（にしゃく：２Ｘ０．３０３＝６０Ｃｍ）ほどの地面（じめん）が掻（か）きのけられた。2-24-6-4そして、彫刻をした鉄の『たが』のはまった樫の木（かしのき）作りの一つの箱があらわれた。 2-24-6-5蓋（ふた）の上には、土も曇（くも）らすことのできなかった銀の板に、スパダ家の紋章（もんしょう）が輝いていた。2-24-6-6それは、普通のイタリーの楯（たて）とおなじく楕円（だえん）形（けい）をした楯（たて）の上に、一ふり剣を縦（たて）に置き、その上に枢機員の帽子をのせたものだった。2-24-6-7ダンテスは、すぐにそれと見わけることができた。2-24-6-8ファリア司祭は、それを幾度（いくど）となく描いて見せてくれていた。2-24-6-9もはや疑う余地（よち）はない。2-24-6-10宝はまさにそこにあるのだ。2-24-6-11まさかこれほどまでの心（こころ）づかいをして、わざわざ空（から）の箱をここへ据（す）え直したものとは考えられない。 2-24-6-12箱の周囲の土は、たちまちにして掻きのけられた。2-24-6-13そしてダンテスは、順々（じゅんじゅん）に、二つの錠前（じょうまえ）に挟（はさ）まれた真中（まんなか）の鍵や、側面（そくめん）についた『にぎり』のあらわれるのを見た。2-24-6-14そのすべてには、当時（とうじ）の風習（ふうしゅう）にしたがって彫刻が施（ほどこ）されていた。2-24-6-15当時にあっては、細工（さいく）さえ施してあったら、どんなつまらない金属でも、すべて貴（とうと）いものとされていたのだった。2-24-6-16ダンテスは箱のとってを取って、持ち上げてみようとした。だが、それは不可能だった。2-24-6-17開けてみようとしたが、鍵や錠前がかかっていた。2-24-6-18これら忠実な番人（ばんにん）どもは、さも中の宝を引き渡したくないとでもいうようだった。 2-24-6-19ダンテスは、鶴はしの鋭い端（はし）を箱の身と蓋（ふた）との間（あいだ）に差しこみ、鶴はしの柄（え）に力をこめた。2-24-6-20すると蓋はしばらくきしんでいた後ではじけ飛んだ。2-24-6-21板に大きな割れ目ができると、もはや金物（かなもの）などはなんの役にもたたなかった。2-24-6-22そして、その執拗（しつよう）な爪で、板をしっかり捉（とら）まえていたが、遂には板に傷をつけながらはずれ落ちた。2-24-6-23箱はあいた。2-24-6-24狂（くる）おしい昂奮（こうふん）がダンテスを捉（とら）えた。2-24-6-25彼は銃（じゅう）をとり、それに弾丸（たま）ごめして自分のそばに置いた。 2-24-6-26まず彼は、輝く空におけるより、もっとたくさんな星を想像の夜のうちに見つけようとする子供のように、その両眼（りょうがん）を閉じてみた。2-24-6-27そして、ふたたびそれを開いたとき、彼は茫然（ぼうぜん）として目がくらんだ。2-24-6-28箱は三つに仕切られていた。2-24-6-29第一の仕切りには、鹿の子（かのこ）色（いろ）の反射（はんしゃ）をみせて真紅（しんく）な金貨（きんか）が輝いていた。2-24-6-30第二の仕切りには、磨（みが）きのかからない地金（じがね）が整然（せいぜん）と並んでいた。2-24-6-31だが、それは、とても重く、すばらしい価値があるということ以外、金（きん）のようには見えなかった。2-24-6-32さて第三の仕切りには、その半（なか）ばを埋（う）めつくして、手に溢（あふ）れるほどのダイヤモンド、真珠（しんじゅ）、紅玉（こうぎょく）があった。2-24-6-33それは輝きわたる滝をなしてざらざらこぼれ落ちながら、まるでガラス窓にあたる霰（あられ）のような音をたてた。

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引用者：2016/8/23　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義