２１（７）腕だめし

2-21-7-1「おお、」とダンテスが答えた。2-21-7-2「どうともよろしいようにお願いします。2-21-7-3船も沈みましたし、船長さんも死んでしまいました。2-21-7-4わたしにしても、ごらんのとおり命（いのち）だけは助かりましたが、まったく裸一貫（はだかいっかん）です。2-21-7-5さいわい、これでも一人前（いちにんまえ）の船乗（ふなの）りですから、これから初めてよる港で、陸にほおりあげていただきましょう。2-21-7-6いつでも商船（しょうせん）の口（くち）ぐらい見つかりましょうから」。

2-21-7-7「君（きみ）は、地中海（ちちゅうかい）はよく知ってるかね？」。2-21-7-8「子供のころから乗りまわしていました」。2-21-7-9「かっこうな船着場（ふなつきば）を知っているかね？」。2-21-7-10「どんなやっかいな港にしたって、たいていなところなら、目をつぶってでも出入りできます」。2-21-7-11「どうです船長、」と、ダンテスに《しっかりしろ！》と叫んだ水夫がたずねた。2-21-7-12「そういうことなら、この船に乗ってもらっては？」。2-21-7-13「そうだな、その言葉にちがいなければ」と、船長はちょっとためらうようなようすで言った。

2-21-7-14「見かけはなかなか達者（たっしゃ）なようだが、やってみさせた上での話さ」。2-21-7-15「りっぱにやってお見せしますよ」と、ダンテスが言った。2-21-7-16「そうか、そうか」と、船長は笑いながら言った。2-21-7-17「いずれ手並（てなみ）を見せてもらおう」。2-21-7-18「いつなんどきでも」と、ダンテスは立ちあがって言った。2-21-7-19「ところで、どこへおいでになるんです？」。2-21-7-20「リブールヌ（リボルノ：2-31-1-10にリボルノとして再出）さ」。2-21-7-21「そんならそれで、こんな陸近くを行って、たいせつな時間をむだにせずに、なぜ『もっとずっ』と、風向（かざむ）きに寄って行かないんです？」。

2-21-7-22「リオン島にぶつかるからさ」。2-21-7-23「それならそれで、二十ブラス（３６ｍ：この長さの単位は見つからなかった：タカヤス訳では尋（ひろ）となっていたので、1尋＝6尺＝１．８１８ｍとして算出）が上も離れて通って行けますぜ」。2-21-7-24「それでは一つ舵（かじ）を頼もう。2-21-7-25腕前（うでまえ）というやつを見せてもらおう」。2-21-7-26青年（せいねん）は舵（かじ）のところに座（ざ）を占（し）めると、一押（ひとお）しして船がよくいうことを聞くかどうかをたしかめた。2-21-7-27船は、とても鋭く感じるとはいえなかったが、そうとう思いどおりになってくれそうだった。

2-21-7-28「帆桁（ほげた：ルビはプラ）、孕索（ようさく：ルビはプリトン）！」と言った。2-21-7-29乗組員である四人の水夫は、おのおの位置についた。2-21-7-30船長は、かれらのするのをながめていた。2-21-7-31「曳（ひ）け！」と、ダンテスはつづいて言った。2-21-7-32水夫はかなり正確に命令どおりにした。2-21-7-33「しっかり結びつけろ！」。この命令は最初の二つの命令と同じように行われた。2-21-7-34船は陸に沿って進むのをやめて、リオン島へ向かった。2-21-7-35そして、ダンテスが前に言った言葉にたがわず、島を右舷二十ブラスのところに残して進んだ。

2-21-7-36「うまいぞ、うまいぞ！」と、船長は叫んだ。2-21-7-37「うめえぞ、うめえぞ！」と、水夫どもがこれに和（わ）した。2-21-7-38一同（いちどう）は、すっかり驚きながら、目には聡明な光が輝きはじめ、体には思いもかけぬ元気が溢（あふ）れだしてきた青年を見まもった。2-21-7-39「いかがです」。ダンテスは舵の手を放（はな）しながら言った。2-21-7-40「どうやら、この航海中だけでもいくらかお役にたちそうですな。2-21-7-41リブールヌへ行って御用（ごよう）がなければ、あそこで追っ払っていただきましょう。2-21-7-42そして、はじめに受け取る何ヶ月かの給金（きゅうきん）のなかから、それまでの食費や、貸していただく着物のお代（だい）をお払（はら）いしましょう」。

2-21-7-43「わかったよ、わかったよ」と、船長は言った。2-21-7-44「君のほうでもわかってくれたら、なんとか考えてみようじゃないか」。2-21-7-45「男（おとこ）一匹（いっぴき）の値段（ねだん）です」と、ダンテスが言った。2-21-7-46「仲間と同じだけのものがいただけたらけっこうなんです。2-21-7-47べつに文句（もんく）はありませんや」。
 
 
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引用者：2016/7/17　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義