(9)大聖堂円蓋(えんがい)の設計

二都市間(にとしかん)対抗(たいこう)意識の功罪(こうざい)
1-6-9-1ミラノとフィレンツェの対抗(たいこう)意識(いしき)は強烈だった。

フィレンツェ市民の場合は「いつかは閣僚に」
1-6-9-2ミラノが君主(くんしゅ)独裁(どくさい)国家(こっか)であるのに対(たい)して、フィレンツェは曲(ま)がりなりにも自由(じゆう)な民主国家(みんしゅ)(こっか)で、内実(ないじつ)は富豪独裁(ふごう)(どくさい)であっても、形式(けいしき)は民主制(みんしゅせい)を維持(いじ)していたから、「貧乏(びんぼう)なパン屋(や)の主(あるじ)でも、アルテに加入(かにゅう)していれば、いつかは共和国総務(きょうわこく)(そうむ)の椅子(いす)に座(すわ)れるという希望(きぼう)を持(も)つことができた」(ブラッカー)。

ミラノ市民の場合は「領主のけらい」
1-6-9-3ミラノでは「市民(しみん)」という言葉(ことば)すら禁(きん)じられ、御領主様(ごりょうしゅ)(さま)の家来(けらい)、つまりビスコンティ家(け)の「家臣(かしん)」と言(い)わなければならなかった。

評論家の処世術「自国の美点、相手の欠点」の弁士
1-6-9-4両国(りょうごく)のウマニスタはそれぞれ自国(じこく)の美点(びてん)を誇(ほこ)り、相手(あいて)の欠点(けってん)を攻撃(こうげき)した。1-6-9-5一方(いっぽう)がその市民的自由(しみんてき)(じゆう)と経済(けいざい))を誇(ほこ)れば、他方(たほう)はその治安(ちあん)のよさと精強(せいきょう)な軍事力(ぐんじりょく)を誇(ほこ)り、一方(いっぽう)が共和政(きょうわせい)ローマに自国(じこく)の歴史(れきし)を結(むす)び付(つ)ければ、他方(たほう)はかつて帝政(ていせい)ローマの首都(しゅと)であり、その精神(せいしん)を受(う)け継(つ)いでいると強調(きょうちょう)した。

芸術面での対抗
1-6-9-6そしてこの対照(たいしょう)は芸術面(げいじゅつめん)にも現(あらわ)れずにはいなかった。1-6-9-7ミラノの国際(こくさい)ゴシック様式(ようしき)に対抗(たいこう)して、ブルネレスキを先頭(せんとう)とするフィレンツェ美術(びじゅつ)は、新(あたら)しい反(はん)ゴシックの先鋭(せんえい)な美学(びがく)を打(う)ち出(だ)した。1-6-9-8ミラノが新(あたら)しい大聖堂(だいせいどう)を無数(むすう)の尖塔(せんとう)のそそり立(た)つゴシック様式(ようしき)で建立(こんりゅう)するなら、フィレンツェ大聖堂(だいせいどう)の工事(こうじ)を再開(さいかい)し、反(はん)ミラノ・反ゴシックの象徴(しょうちょう)のような円蓋(えんがい:半球形の天井や屋根:ドーム)を取(と)り付(つ)けて見(み)せねばならぬ。

1-6-9-9それも、ミラノのように宮廷(きゅうてい)の御用美術家(ごよう)(びじゅつか)に任(まか)せるのでなく、市民(しみん)の間(あいだ)から設計(せっけい)を募集(ぼしゅう)し、市民(しみん)の代表(だいひょう)の審査(しんさ)によって建築家(けんちくか)を選(えら)ぶのだ。1-6-9-10こうして1418年、大聖堂円蓋(だいせいどう)(えんがい)設計(せっけい)のコンクールが開(ひら)かれた。1-6-9-11またしてもギベルティとブルネレスキの争(あらそ)いになったが、今度(こんど)はブルネレスキの勝利(しょうり)に帰(き)した。

フィレンツェ大聖堂の工事再開は屋上装飾の施設
1-6-9-12「花の聖母」(サンタ・マリヤ・デル・フィオーレ)と呼(よ)ばれるフィレンツェ大聖堂(だいせいどう)は、十三世紀(じゅうさんせいき)に巨匠(きょしょう)アルノルフォ・ディ・カンピオによって設計・着工(せっけい・ちゃっこう)された巨大(きょだい)なゴシック建築(けんちく)で、十四世紀(じゅうよんせいき)にはジョットの設計(せっけい)で鐘楼(しょうろう)が完成(かんせい)している。1-6-9-13円蓋(えんがい)の太鼓(たいこ)型(がた)の土台(どだい)もすでに置(お)かれ、あとは円蓋(えんがい)を製作(せいさく)して取(と)り付(つ)けるだけだったが、何(なに)しろ直径(ちょっけい)五十メートルもの大円蓋(だいえんがい)を石材(せきざい)で作(つく)るのは大変(たいへん)な難事(なんじ)であり、それを地上(ちじょう)百(ひゃく)メートルの高(たか)さに取(と)り付(つ)けるのは、当時(とうじ)の技術(ぎじゅつ)では不可能(ふかのう)と信(しん)じられていた。

1-6-9-14それなら、パドバやベネチアの大聖堂(だいせいどう)のようにいくつかの円蓋(えんがい)を組(く)み合(あ)わせるか、それとも尖塔(せんとう)を林立(りんりつ)させるかだが、どちらにしてもゴシック様式(ようしき)の枠(わく)を脱(だっ)することができない。
 
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ミチオ書・第一部・(文章)歴史物語・藤沢道郎
ページ製作者:ささくら修道会 笹倉正義
2014/9/1、2016/1/13、2017/2/19
2019/1/30-31
(ささくら宗)聖母マリヤ福音教会:通称:「オリジナル教会」