（２６）聖堂大円蓋(えんがい)の誉(ほまれ)

新しいアイデアの成功、安定の大円蓋 1-6-26-1ブルネレスキの大円蓋（だい）（えんがい）はほぼ完成（かんせい）し、後（あと）は頂塔（ちょうとう）を作（つく）って取（と）り付（つ）けるだけになっていた。1-6-26-2その巨大（きょだい）なスケールと重量（じゅうりょう）にもかかわらず、石積（いしづ）みは非常（ひじょう）に弾力的（だんりょくてき）で、まるでこうもり傘（がさ）を開（ひら）いた時（とき）、骨（ほね）と骨との間（あいだ）に布地（ぬのじ）が張（は）るような緊張感（きんちょうかん）を呈（てい）するので、決（けっ）して重苦（おもくる）しい重圧感（じゅうあつかん）はなく、逆（ぎゃく）に空中（くうちゅう）に浮遊（ふゆう）していくのを聖堂本体（せいどう）（ほんたい）がつなぎ止（と）めているかのように見（み）える。

聖堂本体と円蓋のバランス 1-6-26-3アルノルフォ設計（せっけい）のその本体（ほんたい）プランは、茎（くき）の先端（せんたん）に花（はな）が開（ひら）いたような形（かたち）で、身廊（しんろう）部分（ぶぶん）のまっすぐな眺望（ちょうぼう）と、突然（とつぜん）放射状（ほうしゃじょう）に拡大（かくだい）する空間（くうかん）とのコントラストを狙（ねら）ったものだが、ブルネレスキはその本体（ほんたい）の外形（がいけい）と内観（ないかん）の両方（りょうほう）を円蓋（えんがい）によって均衡（きんこう）させる。 1-6-26-4その円蓋（えんがい）は後陣（こうじん）の放射状（ほうしゃじょう）の空間（くうかん）を力強（ちからづよ）く完結（かんけつ）させ、その穏（おだ）やかな尖頭形（せんとうけい）のプロフィールによって身廊（しんろう）の縦長（たてなが）の空間（くうかん）を垂直方向（すいちょく）（ほうこう）に均衡（きんこう）させ、そのリブ（：＝肋骨：ろっこつ）の収斂（しゅうれん：ひきしめること）によって円蓋（えんがい：＝半球形の天井や屋根：＝ドーム）の形態（けいたい）を遠近法的（えんきんほう）（てき）に決定（けってい）づける。

（身廊の意味：Webコトバンクから引用） バシリカ式聖堂の祭壇手前の礼拝のための空間。その左右に側廊がとられるのが普通で，両者の間は柱列で仕切られる。

1-6-26-5この円蓋（えんがい）は、聖堂本体（せいどう）（ほんたい）とジョット設計（せっけい）の鐘楼（しょうろう）を一（ひと）つのまとまった全体（ぜんたい）として構成（こうせい）する中核部（ちゅうかくぶ）となっているだけでなく、フィレンツェという当時（とうじ）の大都市（だいとし）の街区（がいく）と道路（どうろ）の機軸（きじく）となって、町並（まちな）みの景観（けいかん）を決定（けってい）づけ、さらに、その壮大（そうだい）さとその曲線（きょくせん）の雄大（ゆうだい）さによって、市（し）の周囲（しゅうい）の丘陵（きゅうりょう）が織（お）り成（な）す地平（ちへい）と遥（はる）かに呼応（こおう）する。 1-6-26-6後（のち）にアルベルティが「新（あたら）しい円蓋（えんがい）はトスカーナ（：＝地方名）のすべての民（たみ）を覆（おお）うだけの大（おお）きさがある」と言（い）ったのは、この意味（いみ）においてである。 1-6-26-7この円蓋（えんがい）の上（うえ）からかぶさるようなボリュームと、建物全体（たてもの）（ぜんたい）の力（ちから）を一点（いってん）に集中（しゅうちゅう）するように見（み）える形態（けいたい）は、無数（むすう）の尖塔（せんとう）を立（た）てて空中（くうちゅう）に力（ちから）を拡散（かくさん）させるゴシック様式（ようしき）と、ちょうど正反対（せいはんたい）である。 1-6-26-8ミラノ大聖堂（だいせいどう）の建築家（けんちくか）たちは、建物（たてもの）に働（はたら）く力（ちから）を一（ひと）つ一つ個別化（こべつか）し、火花（ひばな）のように鋭（するど）くまばゆい尖塔（せんとう）の森（もり）を通（つう）じて空中（くうちゅう）に放散（ほうさん）しようと、懸命（けんめい）に努力（どりょく）していた。 1-6-26-9ブルネレスキはそれとはまったく逆（ぎゃく）に、建物（たてもの）に働（はたら）くすべての力（ちから）を総括（そうかつ）し、均衡（きんこう）させ、無化（むか）する。 1-6-26-10すでに彫刻（ちょうこく）ではドナテッロ、絵画（かいが）ではマザッチョが、ブルネレスキ的空間（てき）（くうかん）把握（はあく）をそれぞれの分野（ぶんや）で試（こころ）み、革命的（かくめいてき）な変化（へんか）を引（ひ）き起（お）こしていた。 1-6-26-11マザッチョは弱冠（じゃっかん）二十七歳（にじゅう）（ななさい）でローマに客死（かくし）したが、彼（かれ）が未完（みかん）に残（のこ）したサンタ・マリヤ・デル・カルミネ聖堂（せいどう）の壁画連作（へきが）（れんさく）は、ブルネレスキ的空間（てき）（くうかん）構造（こうぞう）を歴史（れきし）と倫理（りんり）の意識（いしき）で充（み）たし、それが描（えが）かれたブランカッチ礼拝堂（れいはいどう）は新絵画（しん）（かいが）の学校（がっこう）となり、若（わか）い画家（がか）たちはここを訪（おとず）れて模写（もしゃ）を繰（く）り返（かえ）した。 1-6-26-12こうして力強（ちからづよ）く新（あたら）しい潮流（ちょうりゅう）がフィレンツェ美術界（びじゅつかい）にまず高（たか）まり、やがてイタリア全土（ぜんど）からヨーロッパへと溢（あふ）れ出（だ）すことになる。1-6-26-13美術史上（びじゅつし）（じょう）ルネサンスと呼（よ）ばれる時代（じだい）がここに始（はじ）まった。 1-6-26-14ブルネレスキの大円蓋（だい）（えんがい）はルネサンスの勝利（しょうり）の記念碑（きねんひ）となった。

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ミチオ書・第一部・（文章）歴史物語・藤沢道郎 ページ製作者：ささくら修道会　笹倉正義

2014/9/1、2016/1/17、2017/2/19 2019/2/18 （ささくら宗）聖母マリヤ福音教会：通称：「オリジナル教会」