（２２）メディチ家復活の機運

　（２２）メディチ家復活(ふっかつ)の機運(きうん)

コジモの情報網
1-6-22-1だがもちろん、コジモが最大（さいだい）の注意（ちゅうい）を払（はら）ったのは、故国（ここく）フィレンツェの情勢（じょうせい）である。1-6-22-2弟（おとうと）は常（つね）に彼（かれ）の側（そば）におり、ナポリの従兄（いとこ）とも連絡（れんらく）は取（と）れる。

1-6-22-3メディチ銀行（ぎんこう）の支店網（してんもう）を利用（りよう）して故国（ここく）の同志（どうし）と情報（じょうほう）を交換（こうかん）することは充分可能（じゅうぶん）（かのう）だし、フィレンツェ共和国（きょうわこく）にはベネチアのように強力（きょうりょく）な警察機構（けいさつ）（きこう）は存在（そんざい）しない。1-6-22-4だからコジモは故国（ここく）の情勢（じょうせい）を逐一（ちくいち）知（し）り、必要（ひつよう）な指示（しじ）をメディチ党（とう）に与（あた）えることができた。

1-6-22-5亡命（ぼうめい）の一年間（いちねんかん）に、フィレンツェの政情（せいじょう）は大（おお）きく変化（へんか）し、形勢（けいせい）は逆転（ぎゃくてん）しつつあった。1-6-22-6フィレンツェの経済（けいざい）は好転（こうてん）せず、不況（ふきょう）が続（つづ）いたから、不満（ふまん）は極限（きょくげん）に達（たっ）し、メディチの帰国（きこく）を望（のぞ）む声（こえ）が大（おおっ）ぴらに聞（きこ）こえるまでになった。

メディチ党の宣伝活動
1-6-22-7もちろんメディチ党（とう）の活動（かつどう）は各階層（かく）（かいそう）、各地域（かく）（ちいき）で活発（かっぱつ））に展開（てんかい）された。1-6-22-8無産（むさん：＝辞書：職のないこと）・無権利（むけんり）の民衆（みんしゅう）の中（なか）にも、メディチ支持（しじ）の宣伝（せんでん）が深（ふか）く浸透（しんとう）した。

１４３４年の選挙はメディチ派が勝利
1-6-22-9西暦１４３４年８月、次期（じき）の政府役職選挙（せいふ）（やくしょく）（せんきょ）はアルビッツイの必死（ひっし）の工作（こうさく）にもかかわらずメディチ派（は）の勝利（しょうり）となり、総務（そうむ）の半数（はんすう）と正義（せいぎ）の旗手（きしゅ）をメディチ支持者（しじしゃ）が占（し）めた。

1-6-22-10新国家元首（しん）（こっか）（げんしゅ）はただちにパルラメント、すなわち全市民集会（ぜん）（しみん）（しゅうかい）を召集（しょうしゅう）、政府（せいふ）の全機能（ぜん）（きのう）をこの集会（しゅうかい）に移行（いこう）させると宣言（せんげん）。1-6-22-11聖職者（せいしょくしゃ）を除（のぞ）く全成年男子（ぜん）（せいねん）（だんし）の集会（しゅうかい）だから、会場（かいじょう）に当（あ）てられた広場（ひろ）は群集（ぐんしゅう）でごった返（がえ）す。

1-6-22-12警備（けいび）と称（しょう）して武装（ぶそう）したメディチ党（とう）の若者（わかもの）たちが睨（にら）みをきかせているから、反対意見（はんたい）（いけん）など出しようがない。1-6-22-13この種（しゅ）の大衆集会（だい）（しゅうかい）では、いつの時代（じだい）でも、自由（じゆう）な言論（げんろん）はあり得（え）ないのである。1-6-22-14これに対抗（たいこう）するには暴力（ぼうりょく）しかない。

1-6-22-15アルビッツイは自分（じぶん）の在所（ざいしょ）から若者（わかもの）をかり集（あつ）めて会場（かいじょう）に殴（なぐ）り込（こ）ませようとしたが、いざという段（だん）になって自分（じぶん）があまりに孤立（こりつ）していることに気（き）づいた。1-6-22-16昨日（さくじつ）までの同志（どうし）が軒並（のきなみ）メディチ派（は）に鞍替（くらが）えしていたのだ。

1-6-22-17それに、ちょうど教皇（きょうこう）エウゲニウスが市（し：＝フィレンツェ）に滞在（たいざい）していて、暗黙（あんもく）のうちにメディチ支持（しじ）の圧力（あつりょく）をかけている。1-6-22-18敗北（はいぼく）を悟（さと）ったアルビッツイは、自邸（じてい）の奥（おく）に隠（かく）れるしかなかった。

全市民集会の決議は「臨時執行委員会」に全権委任
1-6-22-19全市民集会は（ぜん）（しみん）（しゅうかい）バーリア、すなわち「臨時執行委員会（りんじ）（しっこう）（いいんかい）」を選出（せんしゅつ）して全権（ぜんけん）を委任（いにん）。

1-6-22-20チョンピ反乱（はんらん）の時（とき）と同（おな）じ手順（てじゅん）だが、相違（そうい）は二点（にてん）。

（１）組織の統制がとれている
1-6-22-21まず、今回（こんかい）は一（ひと）つの党派組織（とうは）（そしき）の指導（しどう）が貫徹（かんてつ）して末端（まったん）まで統制（とうせい）がとれており、暴発（ぼうはつ）や内紛（ないふん）の恐（おそ）れはない。

（２）富豪寡頭体制は維持
1-6-22-22第二（だいに）、支配集団（しはい）（しゅうだん）の交替（こうたい）だけが問題（もんだい）で、富豪寡頭体制（ふごう）（かとう）（たいせい）そのものの変革（へんかく）を要求（ようきゅう）する声（こえ）はどこからも上（あ）がらない。

アルビッツイはフィレンツェを出奔(しゅっぽん)
1-6-22-23十名（じゅうめい）の委員（いいん）から成（な）る臨時執行委員会（りんじ）（しっこう）（いいんかい）はメディチ派一色（は）（いっしょく）、まずアルビッツイ家（け）を豪族（ごうぞく）リストに登録（とうろく）し、参政権（さんせいけん）を奪（うば）う。1-6-22-24昨日（さくじつ）までの実権派（じっけんは）の首領（しゅりょう）は蒼惶（そうこう：＝辞書：あたふたとあわてるさま）として亡命（ぼうめい）の旅（たび）に出（で）た。

ミチオ書・第一部・（文章）歴史物語・藤沢道郎
ページ製作者：ささくら修道会　笹倉正義

2014/9/1、2016/1/16、2017/2/19
2019/2/13
（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会：通称：「オリジナル教会」　　　