コジモの帰国(ベネチアからフィレンツェに) 1-6-23-1十月初(じゅうがつ)(はじ)め、コジモは急(いそ)いで帰国(きこく)の途(と)についた。1-6-23-2市民(しみん)は熱烈歓迎(ねつれつ)(かんげい)の用意(ようい)をして待(ま)ったが、いかにもコジモらしく、お祭騒(まつり)(さわ)ぎの主役(しゅやく)になることを嫌(きら)った。1-6-23-3計算通(けいさん)(どお)りに事(こと)が進(すす)んだだけだから、有頂天(うちょうてん)になることはないのだ。 1-6-23-4郊外(こうがい)カレッジの別邸(べってい)から、供(とも)を連(つ)れずに弟(おとうと)ロレンツオと二人(ふたり)、裏通(うら)(どお)りを通(とお)って直接市庁舎(ちょくせつ)(しちょうしゃ)に入(はい)り、ラルガ街(がい)の自宅(じたく)の前(まえ)に蝟集(いしゅう:=多くのものが一箇所に群がり集まること:蝟はハリネズミ)していた群集(ぐんしゅう)をすっぽかした。1-6-23-5ともあれ、この日(ひ)からフィレンツェの歴史(れきし)は新(あたら)しい章(しょう)に入(はい)った。1-6-23-6メディチ独裁時代(どくさい)(じだい)が始(はじ)まる。 コジモの政権維持理論 1-6-23-7しかし、法制的・形式的(ほうせいてき)(けいしきてき)には、その前(まえ)の時代(じだい)と何(なに)も変(かわ)わったところがなかった。1-6-23-8自由共和(じゆう)(きょうわ)の制度(せいど)にも建前(たてまえ)にも、コジモはいっさい手(て)をつけず、いつもそれを尊重(そんちょう)していた。 1-6-23-9メディチの権力(けんりょく)とかコジモの独裁(どくさい)とかいっても、役職(やくしょく)に就(つ)いていない間(あいだ)はただの一市民(いち)(しみん)であり、役職(やくしょく)に就(つ)いても任期(にんき)は二ヶ月(にかげつ)である。 生涯30年間の長期政権の果実 1-6-23-10帰国(きこく)してから死(し)ぬまでの約三十年間(やく)(さんじゅうねんかん)にコジモが正義(せいぎ)の旗手(きしゅ)、すなわち法制上(ほうせいじょう)の最高権力(さいこう)(けんりょく)の地位(ちい)に就(つ)いたのは断続(だんぞく)して三期(さんき)、計六ヶ月(けい)(ろっかげつ)にすぎず、閣僚(かくりょう)に当(あ)たる総務(そうむ)の椅子(いす)には一度(いちど)も座(すわ)っていない。 1-6-23-11だから生涯(しょうがい)のほとんどを単(たん)なる一市民(いち)(しみん)、一銀行家(いち)(ぎんこうか)として過(すご)したわけだが、彼(かれ)の実質的(じっしつてき)な独裁権(どくさいけん)は三十年間(さんじゅうねん)(かん)揺(ゆ)るがなかった。1-6-23-12彼(かれ)は事実上(じじつじょう)国王(こくおう)であり、その地位(ちい)は子(こ)から孫(まご)へと世襲(せしゅう)された。 長期政権維持はメディチ党支配 1-6-23-13要(よう)するにメディチ独裁(どくさい)とは、メディチを首領(しゅりょう)と仰(あお)ぐ一党派(いち)(とうは)の独裁(どくさい)だったのであり、コジモはその党派(とうは)の頂点(ちょうてん)にあって、絶対的(ぜったいてき)な権威(けんい)を振(ふ)るったのだ。1-6-23-14だから、しがないパン屋(や)の親父(おやじ)でも、それまでと同様(どうよう)、いつかは自分(じぶん)も共和国総務(きょうわこく)(そうむ)の席(せき)につき得(え)ると希望(きぼう)を持(も)つことができた、ただし、メディチ党(とう)に睨(にら)まれさえしなければ。 1-6-23-15だから問題(もんだい)はまず、いかにしてこの「一党独裁(いっとう)(どくさい)」を独裁(どくさい)に見(み)せないようにするかである。1-6-23-16もしそれを表面(ひょうめん)に出(だ)してしまうと、イデオロギーにこだわるフィレンツェ市民(しみん)のことだから、必(かなら)ず有力(ゆうりょく)な反対党派(はんたい)(とうは)が出現(しゅつげん)する。1-6-23-17僭主(せんしゅ:=いつわりの王)は暗殺してもよいというのがフィレンツェ・ウマネジモ(:=人文主義、ヒューマニズム)の考(かんが)え方(かた)である。 一般市民の如く振舞うコジモ 1-6-23-18だから、役職(やくしょく)の権限(けんげん)が弱(よわ)く、政府(せいふ)が短期(たんき)に交替(こうたい)して強力(きょうりょく)たり得(え)ない民主共和制(みんしゅ)(きょうわせい)をそのまま維持(いじ)して、ボスが陰(かげ)から牛耳(ぎゅうじ)る従来(じゅうらい)の政治手法(せいじ)(しょほう)をそのまま踏襲(とうしゅう)する方(ほう)が、遥(はる)かにうまくいくのだ。1-6-23-19コジモは常(つね)に平凡(へいぼん)な一市民(いち)(しみん)、一実業家(いち)(じつぎょうか)として振(ふ)る舞(ま)い、かりそめにも王者(おうじゃ)らしい言動(げんどう)を漏(も)らさぬよう、細心(さいしん)の注意(ちゅい)を払(はら)った。 |
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ミチオ書・第一部・(文章)歴史物語・藤沢道郎 ページ製作者:ささくら修道会 笹倉正義 |
2014/9/1、2016/1/17、2017/2/19 2019/2/14 (ささくら宗)聖母マリヤ福音教会:通称:「オリジナル教会」 |