（１８）デカメロン

作品の概要 1-5-18-1フィレンツェの十人の若い男女（だんじょ）が、ペストを避（さ）けて空気の清浄（せいじょう）な森の中の別荘（べっそう）に十日間（とおかかん）の休養（きゅうよう）を過（すご）す。1-5-18-2その無聊（ぶりょう：たいくつなこと）を慰（なぐさ）めるために毎日各人が一つずつ物語をして聞かせる。1-5-18-3十人（じゅうにん）が十日（とおか）で話す百の物語、それが『デカメロン（十人十日の百話物語）』の枠組（わくぐ）みである。 1-5-18-4黒死病の巨涛（きょとう）をくぐり抜けた人々がその災厄（さいやく）の打撃（だげき）から心を立て直すことを祈って、ボッカチオがこの作品を書いたことは、その筋立（すじだ）てからも明らかだと思えるが、読者が驚かずにいられないのは、その百の物語のどれにも生命力の横溢（おういつ：あふれるばかりに盛んなこと）した人間が登場することで、路傍（ろぼう）に死体が重（かさ）なるあの地獄のような環境（かんきょう）の中で書かれたものとは到底（とうてい）思えないことだ。 1-5-18-5暗い詠嘆（えいたん）の影も深い瞑想（めいそう）の跡（あと）もここにはなく、作者の快活な哄笑（こうしょう）が、どの物語からも響いてくる。1-5-18-6ふてぶてしいまでに強靭（きょうじん）で呆（あき）れるほど健康な欲望（よくぼう）と意志（いし）とが、『デカメロン』の世界を貫通（かんつう）しているのである。 カトリックをパロディに 1-5-18-7悪党で詐欺師（さぎし）のチャペレットは死のまぎわに最高の天才（てんさい）欺瞞（ぎまん：人をあざむきだますこと）をやってのけ、まんまと聖者になりおおせるし、精力（せいりょく）絶倫（ぜつりん）のマゼットは聾唖者（ろうあしゃ）をおよそって女子修道院に入り込み、院長以下修道女全員を愛人にしてしまう。 1-5-18-8運命に翻弄（ほんろう）される人間や情熱ゆえに身を滅ぼす男女の姿も時に浮彫りにされるが、それすらも「充実した生」の諸相（しょそう）の一面（いちめん）として描（えが）き表（あらわ）され、悲壮感（ひそう）（かん）や無常観（むじょう）（かん）や厭世（えんせい）主義（しゅぎ）とは無縁（むえん）である。1-5-18-9人間（にんげん）という生物（せいぶつ）のしたたかさと滑稽（こっけい）さとを余（あま）すところなく描き出したこの作品において、ボッカチオはイタリア語散文（さんぶん）の骨格（こっかく）を確立（かくりつ）した。 1-5-18-10だが、ペスト禍（か）のもたらした惨劇（さんげき）の後（あと）に、誰もが彼のような強靭（きょうじん）な精神力（せいしんりょく）を示したわけではない。1-5-18-11ほとんどの人は現実（げんじつ）に絶望（ぜつぼう）し、刹那的（せつなてき）な快楽（かいらく）に耽（ふけ）るか、それとも自虐的（じぎゃくてき）な贖罪（しょくざい）の道を選ぶか、どちらかであった。

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「デカメロン」の誕生をまさよし君が独自所見 「ボッカチオのナポリアンナイト」

わたしの直感的が、この作品について思うことは、ペストで無くなった王女フィアンメッタへの鎮魂歌である。彼女の死の報に接したボッカチオの悲嘆は、フィレンツエ市民全員の死の悲嘆をもってしても、なお足りない。 この作品の「もとネタ」は、楽しかった王女との日々の記憶である。彼は王女の心を引きとめるために寝物語をした。王女が聞きたがる話を１００話用意すれば、少なくとも１００日間の逢瀬が可能になる。それは奇談でなければならず、誰も思いつかないような、とっぴなものでなくてはならない。話が長すぎてもいけなかった。 「デカメロン」は、「１０日間の物語」だが語り手は１０人いるので、話は１００ある。「１００の物語」にした方が、構成が分かりやすいが、それでは「アラビアンナイト」との距離感が縮まってしまう。ナポリでは、イスラムの「物語」も聞けたのではと思う。 だが、イスラムに寛容なかつてのナポリ王国とは違い、フィレンツェでは何と言われるかを彼は考えていない。カトリックの聖職者たちをパロディにしたのは、そこがナポリであり、王女をおもしろがらせるためだ。だか、彼は無神経にも、それをそのままフィレンツエに持ち込んだのだ。作品内容が、ペスト禍とは関係ないのは、それが明るく陽気な、南国の「寝物語」だったから。 ちなみにアラビアンナイト（千一夜物語）の原型は、ペルシャの王に妻のシエラザードが毎夜語る「寝物語」である。ボッカチオへのヒントで、大事なのは、王に語る妻の「寝物語」である。ボッカチオが妻の役割を演じたのである。

デカメロンはギリシャ語の「10日」(deka hemerai) に由来する。引用先：Wikipedia 2016/1/10

ミチオ書・第一部・（文章）歴史物語・藤沢道郎 ページ製作者：ささくら修道会　笹倉正義

2014/9/1、2016/1/7、2017/2/17、2019/1/20 （ささくら宗）聖母マリヤ福音教会：通称：「オリジナル教会」