(15)ハインリヒ四世の凋落

　(15)ハインリヒ四世(よんせい)の凋落(ちょうらく)

中年(ちゅうねん)皇帝の家庭環境
1-2-15-1若かった皇帝ハインリヒ四世もすでに四十の坂を越えていた。1-2-15-2皇妃にも死に分かれ、今はロシアの皇女プラセーデを後添（のちぞ）いに迎えていたが、夫婦仲はあまりよくなかったようである。

1-2-15-3前妃との間に生まれた長子コンラートを皇帝は溺愛（できあい）しており、その子が成年に近づくと、後継者としての地位を確立させるため、何とかイタリヤ王の王冠を得させたいと考えるようになっていた。

皇子コンラートをカノッサに招く
1-2-15-4そこにつけ込（こ）む隙（すき）を見（み）つけたマティルデは、顔見せのためイタリヤにやってきた太子（たいし）をカノッサに招待（しょうたい）した。1-2-15-5お父上の力（ちから）でイタリヤ王になるのは難（むずか）しいでしょうね、それになれたとしても何の実力もない、肩書（かたが）きだけの飾り人形じゃないの。1-2-15-6それよりも私と組みなさい、私の後盾（うしろだて）で王冠を得れば、お父上の意向（いこう）がどうあろうと、あなた自身の意志で、あなたの能力を発揮（はっき）してイタリヤを治めることができるのよ。

1-2-15-7コンラートはこの誘惑に負けた。1-2-15-8城を出る時、彼は父を裏切る気になっていた。1-2-15-9こうして1093年、イタリヤ王戴冠式（たいかんしき）がモンツァの大聖堂で挙行（きょこう）された。

コンラートにイタリヤ王戴冠式
1-2-15-10ミラノ大司教がコンラートの頭に由緒（ゆいしょ）あるテオドリックの鉄の王冠を載せ、列席者（れっせきしゃ）はトスカーナ女伯を始め反皇帝派の領主ばかりであった。

1-2-15-11最愛の子が憎（にく）むべき仇敵（きゅてき）とぐるになって自分を裏切ったのだから、皇帝ハインリヒ四世の心は深く傷ついたに違いない。

1-2-15-12しかもその傷口に塩をなすりつけるかのように、皇妃プラセーデが義子コンラートを追って出奔（しゅっぽん）、カノッサの城に迎え入れられたから、皇帝は怒りの余り半狂乱になった。1-2-15-13まさしく家庭崩壊である。

皇帝と皇妃の中傷合戦
1-2-15-14夫婦は奇怪な非難を互いに投げつけ合った。1-2-15-15皇妃が夫は小姓（こしょう）たちに順ぐりに身を任（まか）せるよう強制したと言えば、皇帝は妻がコンラートと母子相姦（そうかん）の関係にあったと責め立て、両者とも相手の言うことを根も葉もない嘘だと否定した。1-2-15-16これでは皇帝の権威も地に落ちるのが当然だった。

1-2-15-17父を裏切ったコンラートも幸福ではなかった。

コンラート、神聖ローマ皇帝を称するも領土なし
1-2-15-18マティルデは父帝を廃（はい）してあなたが皇帝になりなさいと勧（すす）め、教皇に会わせてくれた。1-2-15-19教皇ウルバヌス二世は教会はすでに皇帝ハインリヒ四世を廃位（はいい）された人と見なしていると言った。

1-2-15-20そこでコンラートは神聖ローマ皇帝を称したが、この皇帝には実権はおろか、直領（じきりょう）も収入もなく、居城すらあてがわれず、各地の領主の城を歴訪して居候を決め込まなければならなかった。

コンラートがノルマン王女と結婚
1-2-15-21教皇は気の毒がってシチリア・ノルマンの王者ルッジェーロの娘と縁談を進めてくれた。1-2-15-22西暦1093年、十二歳のあどけない花嫁との婚礼が挙（あ）げられたが、期待した婚資はわずかなものだった。1-2-15-23ようやく手に入れたボルゴ・サンドンニーノという田舎（いなか）の粗末な城に住むことになったが、まともに相手にしてくれる者は誰もなく、民衆も彼をばかにした。

1-2-15-24義母プラセーデは絶望してロシアに帰り、修道院で余生（よせい）を送った。1-2-15-25コンラートは父に背（そむ）いたことを痛悔し、女伯を呪ったが、結局は身から出た錆（さび）だった。

1101年コンラート死去（２７歳）
1-2-15-26西暦1101年、二十七歳の若さで没。1-2-15-27マティルデが暗殺したのだという噂も流れたが、あえて手にかけるほどもない無力無害の存在だった。

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（本１、２）－（物語番号１－１８）－（章）－文番号

ミチオ書・第一部・（文章）歴史物語・藤沢道郎
ページ製作者：ささくら修道会　笹倉正義

2014/9/15、2017/2/14、2018/12/20、2021/2/27、3/1
（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会：通称：「オリジナル教会」