（９）マルタ島(とう)にて

9-1翌１６０７年、カラバッジョはマルタ島（とう）に姿を現す。9-2シチリヤのさらに南、地中海の真ん中の小さな島で、当時はマルタ騎士団の領地として独立していた。9-3その後イギリス領となり、現在は独立の小共和国となっている。9-4緯度で見ればチュニジアやモロッコの海岸よりまだ南、ナポリからも五百キロ離れたこの南海（なんかい）の孤島に、彼は安住（あんじゅう）の地を求めたのである。

9-5ここで最初に描いた作品が「洗礼者ヨハネの斬首」で、首都ラ・バレッタの大聖堂を飾る大作である。9-6後ろ手に縛られてうつぶせに押さえつけられたヨハネは、首筋から血を流している。9-7その横に投げ出された剣ですでに斬られているのだ。9-8だが首斬り人は虫の息の聖者の髪の毛をつかんで地に押し付け、右手に持ったナイフで首を胴から完全に切り離そうとしている。

9-9一人の若い女が銀の大皿を差し出して、その首を受け取ろうとする。9-10洗礼者聖ヨハネ殉教の場面は古来（こらい）数多く描かれているが、この絵ほどドラマチックで凄惨で迫真的な画面はかつてなかったから、評判を呼ばぬはずがなかった。9-11ローマから来た名匠（めいしょう）をマルタ騎士団は歓迎、団長ビニャクールの肖像（しょうぞう：現在ルーブル美術館にある）を依頼、これも素晴しい出来ばえだったから、団長は大いに喜び、カラバッジョを騎士団に迎え入れ、騎士の称号を与えることにした。

9-12ここまではとんとん拍子（びょうし）に思われた。9-13だが悪事（あくじ）千里（せんり）を走るという。9-14一年経たぬうちにローマの噂がこの島にも流れてきた。9-15破廉恥（はれんち）な殺人犯に騎士号を与えたとあっては、マルタ騎士団の名誉にかかわる。9-16その上カラバッジョは安心したところで悪い癖が出た。9-17賭博、女、そして喧嘩。

9-18それを口実（こうじつ）に騎士団は彼を逮捕し、ローマへ使いを出して事実を確認しようとする。9-19命運極まった画家は夜陰（やいん）に紛（まぎ）れて脱獄を敢行（かんこう）、小舟に乗ってシチリヤへと逃亡した。9-20騎士団は大いに怒って刺客を派遣、カラバッジョの後を追わせる。9-21マルタ騎士団の名誉に懸けて、あの嘘つき画家、破廉恥な殺人犯を亡き者にしなくてはならぬ。9-22こうしてカラバッジョは、教皇庁警察とマルタ騎士団の刺客との、両方から追われる身となったのである。
 
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謝辞ミチオ・自己研鑽資料
2016/5/7 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義
通称：「オリジナル教会」　「ささくら修道会」
2017/3/4