（２１） （２１）
| 21-1ところで、ダンテは21-2ボニファティウスの死を21-3どう受け止めていたろうか。21-4西暦１３０３年には（フィレンツェの北東、すぐ近くにある町）パドバにいたようだ。21-5そこで親しい同郷人（フィレンツェ）21-6ジョットと21-7会った話が残っているし、21-8ジョットはその年、21-9スクロベーニ礼拝堂の21-10壁画を描くために21-11パドバに滞在していたからだ。 ---彼はおたずね者であり、逃亡者である。彼は感受性が人一倍高いから、常に暗殺者の影におびえていた。このころ彼が手がけていたのは、「新生」であろう。彼はフィレンツェでさまざまな恋歌のようなものを、ラテン語ではなく、フィレンツェで使われていたトスカーナ弁で書き、子女が読めるようにしていた。しかし、政争に破れ、逃亡者となっては、それらの作品もフィレンツェからは抹消された。 「新生」の冒頭にはこう書かれている。「新生」は、逃亡生活の中で、記憶をたどって再編したものだ。過去を振り返っているのだ。「新生」の詩には、恋歌としてありえない、注釈がしてある。 （第一章） 1-1わたしの記憶の書物（１）の中には「ココニ新シキ生ハ始マル（２）」と朱（しゅ）で特筆された章がある。1-2それ以前の生活には読むにたえるものはほとんど無きにひとしい。1-3その朱色で特筆された題目の章の言葉の数々をわたしはこの小冊子の中に書き写そうと思う。（３）1-4そのすべてを書き写すことはできないにしても、すくなくともおおよそは伝えることができるだろう。 （平川 祐広訳 河出書房新社刊） 21-12流浪（るろう）のなかで21-13ダンテは大作（たいさく）21-14「神曲」の21-15執筆（しっぴつ）を続けていた。21-16ああ、奴隷となったイタリヤは21-17苦しみの宿（やど）だ、21-18大嵐（おおあらし）の中で21-19船長のいない21-20船のように21-21波まかせ、21-22風まかせ。21-23彼は21-24「神曲」煉獄（れんごく：カトリックで、天国と地獄の間にあり、死者の霊が天国へはいる前に火で罪が浄化されるという所）篇の中で21-25こう歌っている。 21-26まことにこの後の歴史は、21-27イタリヤが21-28「船長のいない船」だったことを実証する。21-29だが、その船の中で21-30輝かしいルネサンスの芸術が21-31花開（はなひら）こうとは、21-32さすがの大詩人も21-33予見（よけん）できなかったようだ。21-34詩聖ダンテ、21-35西暦１３２１年９月１３日、21-36ラベンナにて没す。21-37享年（きょうねん）五十六歳。 ---ダンテもボニファティウスと同じく、勘違いをしていた。 （１）ボニファティウスは教皇の権限が、信仰によるものであり、武力によるものでないことを取り違えた。したがって、皇帝・君主に教皇（大司教）が戴冠するのは信仰の守護神に対するものであって、世俗の政治目的ではないことだった。 （２）ダンテは自分の卓越した記憶と詩才との資質が、政治の最高指導者としてふさわしく、無知な貴族・豪族らよりも、これからの政治指導者にふさわしいと考えたのだ。しかし、それはうぬぼれだった。彼は政治には手を出さず、詩人として生きたなら、フィレンツェを追われることはなかった。 彼は貴族の家柄の娘ジェンマ・ドナーティと結婚している。そして、そのハネムーンの時期に、人妻となった町娘「ベアトリーチェ」への賛辞詩を書いている。どういう神経をしているのだろう。たぶん、貴族出身のジェンマへの当てこすりである。貴族への劣等感を自分の才能を「詩」で表現することで、ジェンマの上に立とうとしたのだ。 政治的にも、ジェンマ側には立たず、敵方の幹部になった。 そして、選挙には勝ったが、教皇さしがねの武力で粉砕され、死刑を恐れてフィレンツェから逃亡した。そこで、「再びフィレンツェに戻れば殺す」と脅され、それを真に受けて、戻らなかったのだ。かくて臆病な大詩人の家、記録は全てフィレンツェから抹消された。 神曲が書かれたのは、ずっとあとだ。１３０３年、ボニファティウスが崩御し、教皇庁がアビニヨンに移され、フィレンツェのドナーティもダンテなどにかまっていられなくなってからだ。天才の脳裏に凝縮されたさまざまな歪から、神曲は生まれたのだ。しかし、時は過ぎ去り、彼の孤独な夢想の日々は悲しい。アーメン |
| （１６）ロレンツォ・デ・メディチ |
| 謝辞ミチオ・自己研鑽資料 |
| 2016/4/29 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表 笹倉正義 通称：「オリジナル教会」 「ささくら修道会」 2017/3/2 |