（６）他流試合

6-1さて、考えていただきたい、なぜ私がこんな話をするかということを。6-2それはどこからこのような讒謗（ざんぼう）が私に対して起ったかを諸君に向かって説明しようとしているからである。6-3その神託をきいたとき、私は自問したのであった。6-4神は一体、何を意味し、また何事を暗示するのであろうか、と。6-5私が大事においても小事においても賢明でないということは、6-6よく自覚しているところであるから。

6-7して見ると、一体どういう意味なのであろうか、6-8神が私を至賢であるというのは。6-9けだし神にはもちろん虚言のあるはずがない、6-10それは神の本質に反するからである。6-11かくて私は久しい間神の意味するところについて迷ったが、6-12ついに苦心惨憺（くしんさんたん）の末ようやく次のような神託探求法に想到したのだった。

（争賢の他流試合）
6-13私は賢者の世評ある人々の一人をたずねた、6-14そこにおいてこそ−−−6-15もしどこかで出来ることなら−−−6-16神託に対して反証をあげ、6-17そうしてこれに向かい、6-18「見よ、この人こそ私よりも賢明である、しかるに汝は私を至賢であるといった」6-19と主張することが出来るであろう、と考えながら。

6-20そこでその人を充分研究したとき−−−6-21その名前をいうことは無用であるが、6-22アテナイ人諸君、私が吟味している際に次の如き経験をしたのは、政治家の一人であった−−−6-23彼と対談中に私は、6-24なるほどこの人は多くの人々には賢者と見え、なかんずく彼自身はそう思い込んでいるが、6-25しかしその実彼はそうではないという印象を受けた。

6-26それから私は、彼は自ら賢者だと信じているけれどもその実そうではないということを、彼に説明しようと努めた。6-27その結果私は彼ならびに同席者の多数から憎悪を受けることとなったのである。

---相手が怒るのは当たり前。神託は、至賢を証明して、相手を屈伏させることまでは言及しなかったはず。そもそも、相手を怒らせるなど、賢者のすることではなく、愚者のすることではないのか

6-28しかし私自身はそこを立ち去りながら独りこう考えた、6-29とにかく俺の方があの男よりは賢明である、6-30なぜかといえば、私達は二人とも、善についても美についても何も知っていまいと思われるが、6-31しかし、彼は何も知らないのに、何かを知っていると信じており、6-32これに反して私は、何も知りもしないが、知っているとも思っていないからである。

6-33されば私は、少なくとも自ら知らぬことを知っているとは思っていないかぎりにおいて、6-34あの男よりも知恵の上で少しばかり優（まさ）っているらしく思われる。6-35それから私は、前者以上に賢明の称あるもう一人の人をたずねたが、6-36まったく同様の結論を得た。6-37かくて私はこの人からも他の多くの人達からも憎悪せらるるに至ったのである。 
 
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2014/10/16 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義
通称：オリジナル教会