（２９）想定外の判決

29-1アテナイ人諸君、長くもない歳月の間の辛抱が足らぬために、29-2諸君は当市を誹謗せんと欲する人々から、29-3賢人ソクラテスを死刑に処したという汚名と罪科とを負わされるに至るであろう。29-4というのは、諸君を批議（ひぎ：そしること）せんと欲する人々は、29-5実際そうでないにもかかわらず、29-6私を賢人と呼ぶだろうからである。 29-7もし諸君がもうしばらくの間待ちさえしたならば、29-8それはひとりでに諸君の望み通りになったろうに。29-9実際私の年齢（とし）は諸君も御覧の通りであり、29-10すでに高齢に達しておって、29-11死ぬ日も遠くはないのである。29-12もっとも私はこれを諸君のすべてにいうのではなくて、29-13ただ私に死刑を宣告した人達にだけいうのである。 29-14なお私はこれらの人たちに向って次のことをもいって置きたい。29-15諸君、諸君は恐らくこう思われるであろう。29-16私が有罪となったのは言葉の不足によるものであると、29-17いいかえればもし私にして、有罪宣告を免れるためには、29-18どんなことでもしたりいったりしてのけてもかまわないと信じていさえしたなら、29-19言葉次第で諸君を説き伏せることも出来たであろうに、と。 29-20しかしそんなことは思いもよらない。29-21もとより何かの不足があったために私は有罪となったのであるが、29-22それは決して言葉の不足ではなくて、29-23厚顔と無恥と、29-24諸君が最も聴くを喜ぶような言葉によって諸君を動かさんとする意図の不足である。29-25すなわち私が泣いたりわめいたり、29-26その他私に不似合であると主張するものでしかも諸君が他人からは聴き慣れている如き幾多のことを、29-27したりいったりしなかったためである。 29-28しかし私は、弁明の際にも身に迫る危険の故にいやしくも賤民らしく振舞うべきではないと信じていたし、29-29今でもそういう弁明の仕方をしたことを悔いない。29-30むしろ私はかくの如き弁明の後に死ぬことを、29-31そんなにまでして生きることよりも、29-32遥かに優れたりとする。29-33何となれば、法廷においても戦場におけると同様に、29-34どんな真似をしてでも死を脱（ダツ・・・のが）れんと図ることは、29-35私も、また他の何人も、なすまじきことだからである。 29-36また実際戦場においてすら、29-37武器を投出して追撃者に哀願しつつ縋（すが）りつけば、29-38死を脱れるくらいは容易に出来る場合が多いことは明らかである。29-39だからどんな危険に際しても、29-40もし人がどんな事でもしたり言ったりするつもりでさえいるならば、29-41死を脱れる方法はなお他にもいくらでもあるのである。29-42否、諸君、死を脱れることは困難ではない、29-43むしろ悪を脱れることこそ遥かに困難なのである。 29-44それは死よりも疾（はや）く駆けるのだから。29-45こういうわけで、緩慢（かんまん）で老年の私も今比較的緩慢な者に、29-46強壮で迅速（じんそく）な私の告発者達は比較的迅速な者に、29-47邪悪に追付かれたのである。 29-48かくて今、私は諸君から死罪を宣告されて、29-49しかし彼らは真理から賤劣と不正との罪を宣告されて、29-50ここを退場する。29-51私はこの判定に従おう、29-52が彼らもまたそうせねばならぬ。29-53恐らくそれはこうなるより他なかったのであろう、29-54そうして私はこれで結構なのだと思う。

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2014/10/20 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 通称：オリジナル教会