（１６）多衆の誹謗(ひぼう)が

16-1とはいえ、アテナイ人諸君、私にメレトスの訴状にいうような罪過がないことは、16-2多くの弁明を要すまいと思う。16-3それは以上述べたところで充分であろう。16-4しかし最初に述べた通り、16-5私に対する多大の敵意が多衆の間に起っていることが真実であることは確かである。16-6そうしてもし私が滅ぼされるとすれば、16-7私を滅ぼすべきものはこれである。16-8それはメレトスでもなくアニュトスでもなく、16-9むしろ多衆の誹謗と猜忌（さいき：）とである。 16-10それはすでに多くの善人を滅ぼして来た、16-11思うにまた滅ぼして行くであろう。16-12私がその最後だろうというような心配は決して無用である。 16-13もっともこういう人があるかも知れない。16-14「ソクラテスよ、君は今現にそのために死の危険を冒しているような職業を16-15職業とすることを恥辱（ちじょく）とはしないのか」と。16-16しかし私はその人に対して、16-17正当な理由をもってこう答えるであろう。16-18「友よ、君のいうところは正しくない、16-19君がもし、少しでも何かの役に立つほどの人は生命の危険をこそ考慮に入れるべきであって、16-20何を為すにあたっても、16-21その行為がはたして正であるか邪であるか、16-22また善人の所為（しょい：しわざ）であるか悪人の所為であるか、16-23をのみ考慮すべきではないというのならば。 ホメロス著「イリアス」の引用 （イリアスはギリシャ人の聖書「ギリシャ神話」の一文書に当るほどのもの） 16-24けだし君の説に従えば、16-25トロイヤ城外に斃（たお）れた一切（いっさい）の半神達は、6-26なかんずくテティスの子の如きさえ、16-27皆賤（いや）しむべき者となるからである。 16-28彼は女神なるその母が、16-29ヘクトルを殺さんと熱中せる彼に警告したにもかかわらず、16-30恥辱を受けるに較べては身におよぶ危険の如きは全然これを蔑視（べっし）した。16-31彼女の言葉はほぼ次のようであったと思う。16-32「我が子よ、お前が殺されたお友達のパトロクロスの仇討をしてヘクトルを殺すと、16-33お前自身も死ぬことになるよ、16-34ヘクトルに続いて死ぬというのがお前の持って生れた運命なのだから」。 16-35しかし彼はこれを聴いてもなお少しも死と危険を意とせず、16-36かえって臆病者として生き延びて友人の復讐（ふくしゅう）をもしかねることの方を遥（はる）かに多く恐れた。16-37彼はいった、16-38「私は憎い奴に思い知らせてやりさえしたら、16-39直ぐに死んでしまいたい、16-40あの水切の曲った船の傍（からわ）らにいて人の嘲笑を買い、16-41大地の荷厄介となることがないように」と。 16-42君はまさか、その時彼が死や危険を気にかけていたなどとは思うまいね。16-43アテナイ人諸君、真実をいえばこうなのである。 16-44思うに、人はいかなる位置にあっても、16-45それが自ら最良と信じたものであれ、16-46もしくはそれが指揮者によって指定されたものであれ、16-47そこを、危険を冒しても、固守すべきであり、16-48恥辱に較べては、16-49死やその他の事の如きは毫（ごう）も念頭に置いてはならないのである。

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2014/10/19 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 通称：オリジナル教会