（１５）ラバのたとえ

15-1さて諸君、私がいかなる理由から彼の言葉をかく解するかを私と一緒に考察していただきたい。15-2君はしかし私達に答えたまえ、メレトス君。5-3諸君はまた、私が最初にお願いして置いたことを覚えていていただきたい、15-4そうして私が例の調子で物をいっても騒ぎ立てないように注意せられたい。 ---例の調子とは、ソクラテスは攻撃口調で、メレトスにむかって物をいっているのだろか。 15-5メレトス君、およそ世に、人間に関することの存在は信ずるが人間の存在は信じないという人があろうか。15-6諸君、彼は答うべきである、15-7彼は幾度も幾度も騒ぎ立てるべきではない。15-8世に馬の存在を信ぜずして馬に関することの存在を信ずる人があろうか。15-9また笛吹者の存在を信ぜずして笛吹術の存在を信ずる人があろうか。15-10否（いな）、一人も無い、15-11いと優れたる者よ、君が答えることを欲しないなら、15-12私が代わって君と列席の諸君に言おう。 15-13しかし少なくとも次の問には答えたまえ、15-14世に神霊（ダイモニヤ）の働きは信じるが神霊は信じないという人があろうか。15-15「一人もない」。15-16なんと言う有難い事であろう、15-17裁判官諸君に余儀なくされて、15-18君がついに答をするに至ったのは。 15-19そこで君の主張するところに従えば、15-20それが新しきにせよ、古きにせよ、15-21私はとにかく神霊の働きを信じかつ教える者である。15-22いずれにしても私が神霊の働きを信ずることは、15-23君が訴状においても誓っている通り、君の言明するところである。15-24しかるにもし私にして神霊の働きを信ずるならば、15-25私はまたきわめて必然に神霊をも信ずる者でなければならない。15-26そういうわけではないのか。15-27まったくその通りだ−−−15-28と私は推定する、15-29君が答えないから、賛成と見做（みな）して。15-30ところが神霊をばわれわれは神々もしくは神々の子と解していはしないのか。15-31賛否を言明したまえ。 15-32「まったくそいうだ」。15-33すると、もし私が、君も許す如く、神霊を認めているものならば、15-34そうしてその神霊が神々の一種であるならば、15-35君の説は、前にもいったように、15-36謎であり冗談であるというべきであろう、15-37私は神々を認めない者でしかも神霊を認めるからまた神々を認める者でもあるということになるのだから。 15-38もしまた神霊とは、人のいうように、15-39女精（ニュンフェ）やその他の女性を母とせる神々の庶子であるならば、15-40誰か敢（あ）えて、神々の子は存在するが、神々は存在しないと信ずる者があろう。15-41それが背理なことは、15-42ちょうど馬と驢馬（ろば）との雑種なる騾馬（らば）の存在を認めながら、15-43馬と驢馬との存在を認めないのと同様である。 15-44否、メレトス君、君がこんな訴状を起草したのは、15-45われわれを試して見るためか、15-46もしくは何を真の罪過として私を陥（おとしい）れるべきかに当惑した結果としか考えることが出来ない。15-47思うに君が少しでも分別のある人に向かって、15-48一方では神霊のことと神々の事とを信ずることは同じ人には出来ないことだといったり、15-49他方ではまた［両者を信ずる］その同じ人が神霊をも、神々をも、半神（ヘーロエス）をも信じないことがあり得るといったりして、15-50説得しようとしても、それは全然不可能である。 ---ソクラテスの罪状は、国家の信じる神々をソクラテスが信じないで、他の神々を教えている、というものだから、論点が違うように思える。この文面から受ける印象は、ソクラテスが聴衆を感情面に誘導し、話をはぐらかそうとしているな、ということである。 この書面の読者はソクラテスの味方で、メレトスらの敵である、という立場である。

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2014/10/19　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 通称：オリジナル教会