（１０）有閑青年の好奇心

10-1その上なおこういう事もある。10-2きわめて富裕な市民の息子で最も多くの閑暇を有する青年達は、10-3自ら進んで私の跡を追い、10-4私が人々を試問するとき、10-5興（おこ）がりつつこれを傍聴（ぼうちょう）するのみならず、10-6またしばしば私に倣（なら）って自ら他の人々を試問するに至るのである。10-7思うに、その結果彼らは、10-8自分ではいかにも何か知っているらしく自惚（うぬぼれ）れているが、10-9その実、ほとんどもしくは全然、10-10何事をも知らぬ人達がきわめて夥（おびただ）しいことを発見する。 10-11かくて、彼らの試問に逢（あ）った人達は、10-12自ら責める代わりに、10-13私に対して憤り、10-14「ソクラテスという不都合きわまる男がある、10-15彼は青年（せいねん）を腐敗させる者である」というのである。 10-16しかも人が彼らに、いかなる行為といかなる教説とによってぞ、10-17と問うとき、彼らは何ら知るところなく全く答に窮（きゅう）する。10-18しかし彼らは己（おのれ）の当惑を隠（かく）さんがために、10-19すべての哲学者に向けられる陳腐な非難を持出して来る。 10-20すなわち、彼は天上ならびに地下の現象について教え、10-21また神々を信じてはならないこと　10-22かつまた悪事をまげて善事となすことを教える、10-23というのである。 10-24思うにそれは、彼らが事の真相を、10-25すなわち自ら何事を知らぬ癖に何か知っているような顔をしたのが　10-26暴露したことを告白するを欲しないらである。10-27今やこれらの徒（やから）は、10-28名聞（めいぶん：世間の評判）の心深（こころふか）く、10-29熱烈にして多数であり、10-30かつ力一杯（ちからいっぱい）に、10-31説得力ある言辞（げんじ）をもって私を批議（ひぎ）しつつ、10-32年古りて激しき讒謗（ざんぼう）を諸君の耳を満たして来た。 10-33これに励まされてメレトス、アニュトス及びリュコンの三人が、10-34告発者となって私を攻撃するに至ったのである。10-35メレトスは詩人の為に、10-36アニュトスは手工者と政治家とのために、10-37またリュコンは演説家のために、10-38いずれも私に対して瞋恚（しんい：はげしく怒りにくむこと）を感じて起（た）ったのである。10-39されば劈頭（へきとう：事のはじめ、冒頭）にもいったように、10-40かくまで増大した讒謗（ざんぼう：人のことをひどく悪くいうこと）をもし私がかく短時間の間に諸君から取除くことが出来たとしたら、10-41むしろ私自らこれを不思議とするであろう。 10-42アテナイ人諸君、これは真実である。10-43私は事の大なるも小なるも隠すところなく蔽（おお）うところなくこれを諸君に告げたのである。10-44しかも私はまさにこれによって憎悪（ぞうお）を受けることをよく承知している。10-45しかるにこの事こそ、私の語るところが真実であり、10-46また私に対する讒謗とその理由がかくの如くであることの証左なのである。10-47もし諸君が今日もしくは将来においてこの事を究明されるならば、10-48諸君はそのしかるゆえんを発見されるであろう。

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2014/10/17 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 通称：オリジナル教会