（１）７０歳を超えた被告

1-1アテナイ人諸君、諸君が私の告発者の弁論からはたしていかなる印象を受けたか、それは私には分からない。1-2が、彼らの言葉はとにかく私をしてほとんど私自身をさえ忘れさせた程であった、1-3それほどの説得力を以って彼らは語ったのである。1-4それにもかかわらず彼らはひと言の真実をも語らなかったといってよかろう。 1-5しかも彼らの吐いた多くの虚言のうちで、1-6なかんずく私を驚かした一つの事がある、1-7すなわち彼らが私を雄弁家となし、1-8その私に欺かれないように諸君は警戒しなければならぬといった事がそれである。1-9なぜかといえば、私が口を開いて自らすんごうも雄弁家でないことを示せば、1-10彼らの謬言（びゅうげん:まちがった発言）は立ち所に実証によって私の覆すところとなるべきにもかかわらず、1-11なおこの言を為して自ら恥じなかったということは、1-12彼らの最も無恥なる点と私には見えたからである−−−1-13もっとも彼らが真実を語る者を雄弁家とすれば格別であるが。 1-14もし彼らの意味するところがここにあるならば、私は自ら1-15−−−もとより彼らとは別様の意味において−−−一種の雄弁家であることを認めてもよい。 1-16今申す通り、彼らはほとんど一語も真実を語らなかったといってもいい位であるが、1-17これに反して諸君は、私の口からは、全真相を聴くであろう。1-18もとより、アテナイ人諸君、諸君が私の口から聴くべきところは、1-19ゼウスの神かけて、1-20彼らのそれの如く麗句と美辞とを以って飾られた巧妙な演説ではない。1-21それは無技巧に思いつくままに漏らさるる言葉である。1-22けだし（蓋し：思うに。まさしく。たしかに。文語的な語で、確信をもって推定するときに使う）私は私が語るところの正しきを信じている。 1-23従って諸君のうちの一人といえどもそれ以上のことを期待してはいけない。1-24諸君、諸君の前に現われて青年の如く技巧を凝らせる弁舌を奔するようなことは、1-25私の年齢からいっても少しもふさわしくないのである。1-26それから、アテナイ人諸君よ、くれぐれも諸君にお願いしておきたい事が一つある。1-27−−−この弁明をなすにあたって、私が平生（へいぜい）市場において両替屋の卓子の傍で1-28（そこで私が話しているのを諸君の多数は聴かれたであろう）1-29もしくは他の場所において用い慣れたのと同じ言葉遣いをするのを聴かれるにしても、1-30諸君は、そのために訝（いぶか）りもしくは騒ぐようなことをしないでいただきたい、1-31それはすなわちこういうわけである。 1-32私はもう七十歳以上にもなるが、1-33法廷に出たのはこのたびがそもそも最初である。1-34従って私はここで慣用の言葉遣いには全然通じていない。1-35いま仮に私が実際よそ者であったとすれば、1-36たとい私がその中で育て上げられて来た方言や話法を用いても諸君はきっと私を咎（とが）められないであろう。1-37それと同様に、私が今諸君に向かってこういってお願いするのは、少なくとも私には正当なことと思われる−−−1-38それが他のものより悪いにせよ、また優れているにせよ、1-39とにかく私の言葉遣いを大目に見ていただきたい。 1-40私のいうところが正道に適（かな）うか適わないか、ただそれのみを考慮に入れ、1-41ただそれのみに注意を向けていただきたい。1-42けだし裁判者の徳義（アレテー）はまさにここにあり、1-43これに対して、弁者のそれは真実を語るところにあるからである。

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2014/10/15 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 通称：オリジナル教会