（３）恋人のあとを追うジュリエット

1-4-2-3-1このとき、いまだに恐怖を捨てきれないでいるものの、恋人にはぐれてもいけないと思ったティスベがもどって来ました。1-4-2-3-2血まなこで、懸命に若者を探すのですが、自分がどれほどの危険を避けていたのかを知らせたい一心です。1-4-2-3-3場所をさぐり当て、木の姿にも見おぼえはあるのですが、実の色が不審を呼びます。1-4-2-3-4この木だったのかしら、と迷うのです。1-4-2-3-5そんな疑念にとらえられているうちに、何やら人影がぴくぴくと、地上にうごめいているのが見えたのです。1-4-2-3-6驚いて、あとじさりします。1-4-2-3-7顔は、黄楊（つげ）の木よりも青白くなって、からだはがくがくと震えます−−−−そよ風に水面がなぶられて、ふるえ動く海原（うなばら）のように。 1-4-2-3-8でも、しばらくあとで、それが自分の恋人だとわかると、罪もない腕を高らかに打ちたたいて、嘆きをほとばしらせます。1-4-2-3-9髪を引きむしり、いとしいからだを抱いて、傷口を涙で埋めますと、その涙が血と混ざるのです。1-4-2-3-10冷たい顔に口づけしながら、『ピュラモス！』と叫びました。1-4-2-3-11『何という不運が、あなたをわたしから奪ったのでしょう？1-4-2-3-12ピュラモス、答えてちょうだい！1-4-2-3-13あなたの最愛のティスベが、あなたの名を呼んでいるのよ。1-4-2-3-14聞いてちょうだい！1-4-2-3-15うなだれた顔を起こして！』。 1-4-2-3-16ピュラモスは、ティスベの名を聞いて、死の眠りで重くなった目をあげ、彼女を見てから、ふたたび目を閉じました。1-4-2-3-17ティスベは、自分のベールと、中身（なかみ）のからな象牙（ぞうげ）の剣鞘（けんさや）を見てとると、こういいます。 1-4-2-3-18『あなたの手と、そして愛が、あなたの生命を奪ったのね、不しあわせなかた！1-4-2-3-19でも、わたしにも、その同じことをするための雄々（おお）しい手と、愛がありますわ。1-4-2-3-20その愛が、みずからを傷つけるだけの力を与えてくれるのよ。1-4-2-3-21あの世へおともをいたしましょう。1-4-2-3-22あなたの死の哀れな原因でもあり、そのお道連れともいわれましょうよ。1-4-2-3-23死によってのみわたしから引き離されることのできたあなたが、もう、死によってさえもお引き離されることはできないのです。 1-4-2-3-24おお、わたしのお父さま、それにこのかたのお父さまも、どんなにお可愛そうなことか！1-4-2-3-25でも、あなたがたに、わたしたちふたりからのお願いがあるのです。1-4-2-3-26確かな愛が、いまわの刻（とき）が、こうして結びつけてくれたわたしたちを、同じお墓に葬っていただきたいのです。1-4-2-3-27それに、この桑の木にもお願いが・・・・。1-4-2-3-28今は、みじめなひとりのなきがらを、枝の下に隠しているけれど、もうすぐ、ふたりのからだを覆い隠してくれましょうね。1-4-2-3-29これからは、わたしたちの死の形見（かたみ）に、いつも、嘆きにふさわしい黒い実をつけてほしいの。1-4-2-3-30ふたりの血潮の思い出にね」。 1-4-2-3-31こういって、胸の下に刃（やいば）をあてがうと、血のぬくもりがまだ残っている剣のうえに、うつ伏せになりました。1-4-2-3-32でも、彼女の願いは、神々によって、親たちによって、聞きいれられたのです。1-4-2-3-33桑の実は、熟しきると、黒っぽい色になるのですし、焼け残った彼らの骨は、ひとつの壺に眠っているのですから」。

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ページ制作者者：（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
モンテ・クリスト伯（四）５１「ピラムスとティスベ」を補足
2017/9/22