（２）歴史ビジョン

2-1誤解を避けるために言うとすれば、2-2本書はイタリヤ史の「列伝」ではない。2-3十人の人物の略伝を時代順に並べたものでもない、2-4ということである。2-5非常に簡略ではあるが、2-6これはやはり一つの通史、2-7というのがおこがましければ通史のスケッチであって、2-8ただ前面に人物を置き、2-9それによって各時代のイタリヤ社会の2-10パースペクティブ（遠近法。見通し。展望）を確保したかったのである。2-11それは、政治史でも経済史でも文化史でもなく、2-12それらを総合する全体的・歴史的ビジョンを得るための、2-13一つの方法、2-14一つの試行でしかない。

2-15だがそのビジョンが得られなければ、2-16物語を始めたり2-17継続したりすることはできない相談である。2-18そしてもちろん、そのビジョンが現実に起こった事実に密着していないとすれば、2-19それは作り話であって歴史ではない。2-20私はこれが作り話でないことは充分に保証できるが、2-21私の得たビジョンが最適の、2-22歴史的に正当なビジョンであるかどうかについてはそれほどの自信がない。2-23それは論理の問題でも2-24アイデアの問題でも、2-25いわんやレトリック（文章表現上の技法・技巧。修辞学）の問題でもない。2-26別の、もっと適切でもっと透徹（とうてつ）したビジョンにとってのみ2-27批判され得る問題なのであり、2-28私はそのような批判を受けたいと思っている。

2-29現在の歴史記述は2-30民族＝国民を単位として行われるのが通常の習慣で、2-31近代の人間の共同性が2-32国家という人工的な強制装置によってのみ2-33維持されているという事実が、2-34その習慣を正当化してきた。2-35現在国家の共同性の基盤は2-36崩壊の過程に入っていて、2-37その人工性は誰の目にもあきらかになりつつある。2-38国家は、共通の言語、2-39共通の生活文化、2-40共通の伝承の上に屹立（きつりつ：山なとが高くそびえること）する2-41権威ある法制から、2-42一定地域の住民の共通の利益を擁護するために2-43利用されるさまざまの管理機構の一つへと、2-44急速に変貌しつつある。

2-45こういう状況の中で、2-46我々の過去の時間への広漠とした展望を、2-47民族という枠組みで切り取ることも、2-48一つの便法という以上の意味を持ち得ないし、2-49今までそうしてきたことの意味や限界も、2-50すでに明白に露呈している。
 
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2014/9/1、2016/3/17、3/23 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義
通称：オリジナル教会
Webキリスト教マニュアル「笹倉キリスト教会」製作者