（１６）ボルテール

（１６）ボルテール ---反カトリックによる教会分裂によって、キリスト教そのものの権威が落ちていった。社会構造の変化と相まって、反キリスト教を推進する無宗教勢力が台頭してきた。 16-1西暦１７５０年代のパリ、16-2そこは啓蒙（けいもう）主義の花盛りである。16-3五十一年六月に第一巻を刊行した16-4「百科全書」は、16-5イエズス会を先鋒とする16-6保守陣営の猛烈な攻撃を浴びながら版を重ね、16-7各国語に翻訳（ほんやく）され、16-8啓蒙主義の聖書となりつつあった。16-9信仰に代えて理性を、16-10宗教に代えて科学を押し出す16-11この新思想の指導者たちは、16-12フィロゾーフ、16-13すなわち「哲人」と呼ばれたが、16-14その最高の代表者は、16-15衆目（しゅうもく）の一致するところ、16-16ボルテールであった。 16-17論説にも小説にも演劇にも詩にも、16-18そしてサロンの会話にも、16-19往（ゆ）くとして可ならざるはないこの哲人は、16-20若い頃からパリで最もエスプリ（心、才気、機知）豊かな才人という評価を得ていた。16-21鋭い観察と深い思惟（しい：思考）を表現する彼の筆致（ひっち）は、16-22あくまで軽快かつ明晰（めいせき）で、16-23ユーモアに富んでいた。16-24「荘重（そうちょう）とは病気である」16-25とは彼の口癖だが、16-26まことに愚鈍と蒙昧（もうまい：知識が足りず、物事の道理がよくわからないこと）こそが彼の敵であった。 16-27その愚鈍と蒙昧を基盤として、16-28その上に荘重に建っているのが16-29「アンシアン・レジーム」16-30すなわち既存の国家社会体制であり、16-31それを文化的・思想的に権威づけているのがカトリック教会であるから、16-32皮肉と嘲笑を織り混ぜた16-33ボルテールの鋭い攻撃がこの両者に集中する。 16-34デカルトと同じく彼も、16-35理性の検証を経ていない真理をすべて否認するところから出発する。16-36「懐疑（かいぎ）は愉快でないが信念は滑稽だ（こけい）」16-37「最初の聖者とは最初の愚者に出会った16-38最初のペテン師である」。 16-39彼は新しい時代が扉を叩いていると予告し、16-40「自由な頭脳と健全な意識を与えよ、16-41さすれば良き政治体制をあたえよう」と書いた。16-42彼はまさに蝶（ちょう）のように舞い蜂（はち）のように刺したから、16-43全ヨーロッパの「自由な頭脳」は熱狂し、16-44教会権力も世俗権力もその舌鋒に恐れをなした。 16-45ボルテールと啓蒙主義の影響は16-46国家の指導層にも顕著（けんちょ）で、16-47各地に啓蒙君主が現れた。16-48信心深い女帝マリア・テレジアは16-49ボルテールを悪魔の化身（けしん）だと信じていたが、16-50その子の皇帝ヨーゼフ二世は16-51「哲人たち」の大ファンで、16-52新思想にもとづいた社会改革を次々に立案（りつあん）し、16-53実行に移した。16-54オーストリアの直領（じきりょう）となった旧ミラノ公国も16-55そのおかげで近代化の方向に進み、16-56次の時代にイタリヤ産業の中心となる土台を構築することができた。 16-57ヨーゼフ二世の弟で16-58トスカーナ大公に就位（しゅうい）したピエトロ・レオポルドも典型的な啓蒙絶対君主で、16-59メディチ家支配のもとでめちゃめちゃになっていた16-60トスカーナの社会構造にメスを入れた。16-61フロイセンの大王（だいおう）フリードリヒ二世は16-62熱烈なボルテール・ファンとなり、16-63彼をポツダムの王宮（おうきゅう）に招聘（しょうへい）したし、16-64ロシヤの女帝エカテリーナ二世も彼に憧（あこが）れて、16-65「快活さの神」ボルテール宛に16-66ペテログラードからミンクのコートを贈ってきた。16-67フランスの上層部にも啓蒙主義は急速に浸透（しんとう）しつつあったから、16-68これら啓蒙君主、16-69開明（知識が開けている）絶対君主の手によって16-70「上から」社会革命実現し得ると、16-71ボルテールは信じていた。

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2014/9/1、2016/ （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 通称：オリジナル教会