（１０）遊郭都市ベニス

（１０）遊郭都市ベニス 10-1市民は犯罪よりもずっと賭博（とばく：賭け事）の方を好んでいた。10-2リドット館（かん）という官許（かんきょ）の賭博場があり、10-3最大の国庫収入源になっていたが、10-4ついには賭博が世襲（せしゅう）財産を呑（の）み尽くし、10-5貴族支配体制を揺るがせるのではないかと憂慮（ゆうりょ）した政府は、10-6西暦１７７４年、10-7英断（えいだん）を下してこの賭博場を閉鎖した。10-8ちょうどこの頃（ころ）居合わせたグダールの記述によれば、10-9「この閉鎖で全市民が憂鬱（ゆううつ）になった。10-10商売はすべてあがったりになり、10-11仮面業者も飯（めし）の食い上げ、(10-12)日に十時間カルタを握っていた貧乏貴族は10-13無為（むい）を嘆（なげ）いた。10-14国が生きていくために、10-15賭博という悪習（あくしゅう）が絶対に必要であった」。 10-16だが、対策はすぐに発見された。10-17公認の賭博場がなくなった代わりに、10-18至るところに私設賭博場ができたのだ。10-19ヘラリーノの証言によれば、10-20「名門の奥方（おくがた）が貧家（ひんか）のかみさんたちと一緒になって賭博に耽（ふけ）っている。10-21モロジーニ家を始め一流（いちりゅう）の貴族が低級な売春宿に群れて、10-22パンフィロというトランプ博打（ばくち）に夢中である。10-23一部の女性は、10-24持ち金をすってしまうと、10-25博打を続けたいのと快楽を求めるのと両方の欲望を一挙（いっきょ）に満たすため、10-26誰彼（だれかれ）かまわず身を任せる」。 10-27こんな具合だから、10-28上流階級では10-29もはや真面目（まじめ）な結婚生活など存在しなくなっていた。10-30財産相続の都合で結婚という形式が守られただけで、10-31貞操（ていそう）とか名誉とか美徳とかいう言葉は、10-32男女関係に関しては誰も用いなくなっていた。10-33修道女さえ公然（こうぜん）と愛人を持ち、10-34仲間同士で男を奪い合うことも珍しくなかった。 10-35こうなると失業するのは娼婦（しょうふ）遊女（ゆうじょ）の類（たぐい）である。10-36かつてセックス市場（しじょう）の絶対支配権を誇っていた遊女たちも、10-37この風潮（ふうちょう）の中で多くが商売替（か）えを余儀（よぎ）なくされた。10-38「ベネチヤには遊郭（ゆうかく）はない」と10-39フランス人旅行者が断言している。10-40「ベネチヤ全体が一つの遊郭だから」。

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2014/9/1、2016/3/2 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 通称：オリジナル教会