（１）フィレンツェの大公

1-1ビットリオ・アメデーオが世を去った頃、1-2列強（れっきょう）外交官の目はトスカーナ大公（たいこう）国（こく）に注がれていた。1-3大公ジャンガストーネに嗣子（しし：あと継ぎ）なく、1-4歴史に名高いメディチ家もついに断絶することが確実だったからである。1-5現大公死去の場合、1-6フィレンツェの玉座（ぎょくざ）に誰を座らせるか。1-7成り行き如何（いかん）ではまたもや戦争である。1-8それにジャンガストーネは即位した時からすでに重症（じゅうびょう）で、1-9公務（こうむ）を執（と）るのもベッドの中という噂があったから、1-10いつ死亡が発表されても不思議はないと思われていた。1-11ところが彼は十四年も大公の位にあって、1-12ベッドの中から政務を指示し、1-13六十六歳まで生き延びた。1-14六十六歳といえば当時では頑健な人でも長生きといわれたものだ。

1-15実はメディチ家（け）最後（さいご）のこの大公は、1-16それほどの重病ではなかったのだ。1-17いつもベッドに寝転（ねころ）んでいたのは1-18単にものぐさであったに過ぎない。1-19父コジモ三世の後を襲（おそ）って大公位（たいこう・い）に就（つ）いた時、1-20「まるで王様の役を演じる喜劇（きげき）俳優（はいゆう）のような気がする」と言った。1-21彼は次男（じなん）だったから本来（ほんらい）なら気楽な立場だったろうが、1-22兄が信仰（しんこう）一点張（いってんば）りのお父親に反抗して放蕩（ほうとう）の限りを尽（つく）し、1-23性病にかかって若死にしたので、1-24彼に番が回ってきたのである。

1-25同性愛者で、1-26馬丁（ばてい：馬の世話や口取りを職業とする人）の美青年ジュリアーノ・ダーミといい仲だったが、1-27父は跡継（あとつ）ぎを得るためにむりやり結婚させようとしてことごとく失敗した。1-28父が全権力を掌握（しょうあく）して1-29信仰（しんこう）本位（ほんい）の生真面目（きまじめ）な悪政（あくせい）を長年（ながねん）続けたから、1-30後を継いだ時には財政（ざいせい）赤字（あかじ）は膨大（ぼうだい）、1-31産業は不振（ふしん）を極（きわ）め、1-32それを立て直そうにも、1-33父が能力でなく1-34教会への信仰の度合いによって人事（じんじ）を決めていたため、1-35指導層がまったく育っていなかった。

1-36熱意をもって国事（こくじ）に当たろうとしてもこれではどうしようもないが、1-37ジャンガストーネには君主（くんしゅ）としての野心（やしん）も熱意もなく、1-38政務は嫌（いや）でたまらず、1-39公衆の前に出るのは苦痛だった。1-40最初のうちこそいやいや儀式やパーティに出席したが、1-41やがて自宅に引き籠（こも）り、1-42そのうちに寝室から出なくなり、1-43最後にはベッドから起き上がらなくなった。1-44風呂（ふろ）にも入らずシーツも替えさせないので、1-45彼の寝室は犬小屋のように臭くなり、1-46兄嫁のビオランテが入ってきて卒倒（そっとう）しそうになったほどである。
 
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謝辞ミチオ・自己研鑽資料
2014/9/1、2016/2/26 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義
通称：「オリジナル教会」　「ささくら修道会」
2017/2/22