（３）カトリックの守護神

3-1アルカラ公もカルバンも、3-2毫（ごう：少しも）も後悔することなく、3-3良心（りょうしん）に何の咎（とが）めも感じなかった。3-4自分は正義を行ったのだ、3-5神に逆らう異端の徒（やから）を抹殺（まっさつ）したのだ、3-6神は我が行為（こうい）を嘉（よみ）したまうであろう。3-7二人とも単純にそう確信していた。3-8アルカラ公はその後も職務に精励し、3-9カルバンは「セルベートの珍奇なる謬（びょう：誤った）論を排す」という論文を書いて、3-10なおも死屍（し・かばね）に鞭（むち）打ち続け、3-11イデオロギーにとらわれた信念の人は3-12どんな犯罪者よりも3-13冷酷残忍になり得るという真理を実証した。 3-14そしてこの時代は、3-15そうした「信念の人」がヨーロッパに満ち溢（あふ）れていた。3-16指導者から一般民衆に至るまで、3-17あらゆるレベルで絶対の正義を振りかざして3-18居丈高（いたけだか）に他人を糾弾（きゅうだん）することが行われ、3-19絶対の正義がもう一つの絶対の正義と衝突すると3-20殺し合う意外に道はなかった。3-21ヨーロッパ各地で3-22血なまぐさい宗教戦争が起こるのは3-23当然の成り行きだった。3-24イタリヤでそれが起こらなかったのは、3-25この国が反宗教改革の牙城で、3-26カトリックが絶対優勢であり、3-27異端審問所が全土（ぜんど）に睨（にら）みをきかし、3-28かつその背後にスペインの強大な武力があったからだ。 3-29新大陸に広大（こうだい）な植民地を得、3-30その金銀をも独占したスペインは、3-31今やヨーロッパ最強国であり、3-32イタリヤはその強圧のもとに屈せざるを得なかった。3-33旧ミラノ公国と旧ナポリ王国、3-34それにサルデーニャ島が3-35スペイン副王（ふくおう）統治（といち）の直轄（ちょっかつ）領となり、3-36何とか独立を保った中部イタリヤ諸国も、3-37圧倒的なスペインの軍事力の前に3-38ひれ伏すほかはなかった。 3-39その上、東ではイスラム・トルコがスイマン大帝の治下（ちか）に征服事業を拡大し、3-40バルカン半島を侵蝕（しんしょく）、3-41内陸深く攻め込んで皇帝の座所ウィーンを脅かし、3-42海上でもキリスト教徒を圧迫したから、3-43十六世紀初めに全欧の連合軍を相手に3-44互角（ごかく）に戦う実力のあったベネチア共和国も、3-45孤立（こりつ）無援（むえん）の対イスラム戦で国力（こくりょく）疲弊（ひへい）、3-46おまけに新航路が次々に開発され、3-47貿易の中心が地中海から大西洋に移動して、3-48さしも豊かだった共和国の経済にも暗い影を落としていた。 3-49信仰（しんこう）厚（あつ）いフェリーペ二世と3-50その陸海軍は反宗教改革の「世俗の腕」であり、3-51その鉄腕がイタリヤとスペインを宗教改革の嵐（あらし）から守ったのである。

次へ

謝辞ミチオ・自己研鑽資料

2014/9/1、2016/2/10 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 通称：「オリジナル教会」　「ささくら修道会」 2017/2/21