（７）恵まれた環境

7-1メディチ邸に寄宿（きしゅく）することになった少年ミケランジェロは、7-2完成期に入ったこのフィレンツェ文化の雰囲気を思う存分吸収した。7-3意欲と好奇心に満ちた若い芸術家にとって、7-4これ以上に恵まれた環境は考えられない。7-5ロレンツオは約束通り我が子同様に待遇してくれた。7-6跡継（あとつ）ぎの長男（ちょうなん）ピエロ、7-7後に教皇レオ十世となる次男ジョバンニ、7-8三男ジュリアーノ、7-9長女コンテッシーナ、7-10それに後の教皇クレメンス七世になる甥（おい）のジュリオ。

7-11これらメディチ家の若者たちと同じ食卓を囲み、7-12詩人ポリツイアーノも同席し、7-13さらにしばしば最高の学者や文化人が客として招かれる。7-14その席の談話の中でミケランジェロの教養は形成された。7-15彼はここで時代の最先端の思想に触れ、7-16社会や人生や宗教や芸術の意味について考えさせられ、7-17幅広い古典の知識を得た。7-18ポリツイアーノはこの偏屈（へんくつ）な少年を愛して、7-19詩作の手ほどきをしてくれた。

7-20この新プラトン主義的ウマネジモ（人文主義、ヒューマニズム）の教養が、7-21ミケランジェロ芸術の基礎となったことは疑いを容（い）れない。7-22この環境の中で若いミケランジェロは自己（じこ）の天才の最初の花を咲かせた。

7-23だが、偏屈（へんくつ）な性格はいっこうに直らなかった。7-24感受性が強く、7-25自分の心が傷つくことを恐れて、7-26絶えず猜疑（さいぎ）の念に捉（とら）われ、7-27容易に心を他人に開こうとしないのに、7-28逆に他人の心を傷つけるような言動を平気でやってしまうところがあり、7-29半ば無意識のうちに他人と確執（かくしつ）を醸（かも）してしまうのだった。

7-30ある時彼は仲間の美術書生（しょせい）とともにブランカッチ礼拝堂のマザッチョの壁画を模写していたが、7-31仲間たちの絵が下手（へた）に見えてたまらず、7-32その欠点をずけずけ批評したので、7-33皆をすっかり怒らせてしまった。7-34仲間のうちで年長のトリジャーノという彫刻家志望の青年が、7-35その怒りを代表してこの生意気（なまいき）な天才少年に鉄拳（てっけん）制裁を加え、7-36顔面（がんめん）を強打（きょうだ）した。7-37鼻梁（びりょう）が折れてミケランジェロの鼻は曲り、7-38一生（いっしょう）回復せず、7-39もともと強かった容姿（ようし）コンプレックスと閉鎖的（へいさ・てき）な性格をいっそう強めることとなった。7-40天才の鼻っ柱（ぱしら）を挫（くじ）いたトリジャーノは後々まで「あの高慢な野郎の鼻に一生消えない刻印を押してやった」と自慢し続けたというから、7-41後悔も同情も感じていなかったに違いない。

7-42生まれながらに類（たぐ）い稀な美術の才能に恵まれ、7-43その上メディチ邸という最高の環境に拾（ひろ）い上げられたミケランジェロが、7-44同輩の羨望（せんぼう）と嫉視（しっし）と憎悪（ぞうお）の的（まと）になるのは当然の成り行きだが、7-45彼の不器用（ぶきよう）な性格は、7-46その中で上手に身を処（しょ）していくのにあまりにもむいていなかったのである。7-47そして、１４９２年が来た。
 
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謝辞ミチオ・自己研鑽資料
2016/1/21 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義
通称：「オリジナル教会」　「ささくら修道会」
2017/2/19