（２）手直しの （２）手直しの
| 2-1「イル・マニフィコ」、すなわち「豪華な人」と呼ばれるロレンツオは、2-2額（ひたい）広く眉（まゆ）太く、落ちくぼんだ眼窩（がんか）とそこから飛び出しそうな大きな眼球、それに大きな鼻という、2-3メディチ家特有の人相（にんそう）を受け継いでいるが、2-4顴骨（かんこつ：ほおぼね）高く、顎（あご）はしゃくれて長く、下唇（したくちびる）が異常に前に突き出し、端的（たんてき）にいって異相である。 2-5西暦１４８９年のある日、その異相の独裁者がサン・マルコ修道院の庭園（ていえん）を散歩していた。2-6そこには彼が蒐集（しゅうしゅう）した古代の彫刻が集めてあり、2-7修道院の庭なのに誰もがメディチ庭園と呼んでいた。2-8ロレンツオはそこで一人（ひとり）の少年に出会った。2-9十四、五歳（じゅうしご・さい）のその子は、老いた牧神（ぼくしん）の頭像（ずぞう）の模刻（もこく）に熱中していた。2-10その古い頭像は長年の風雨に晒（さら）されて破損が著しく、2-11長い髭（ひげ）と笑い顔の見分けがつく程度だったが、2-12少年はそれを新しく大理石に写して復元しようとしているようだった。 2-13ドナテッロ死後沈滞している彫刻の分野を振興すべく、2-14若い彫刻家を育成しようとしていたロレンツオは、2-15すぐにその少年の並外（なみはず）れた才能と素質を見抜いた。2-16彼は少年に近づき、声をかけ、作品を手にとって見た。2-17その出来栄（できば）えはすばらしかったが、「豪華な人」は、2-18フィレンツェ人特有の諧謔（かいぎゃく：おどけた話や言葉、ユーモア）と批評精神で驚嘆を包むことを忘れなかった。 2-19「ふうむ、君がこの老牧神を彫ったのだな。2-20なかなかのものだ、でも歯が全部揃（そろ）っているね。2-21こんな老人にはそれではおかしいんじゃないか」。2-22思わぬ欠点を指摘された少年は恥と怒りで真っ赤（まっか）になる。2-23異相の紳士（しんし）は微笑（ほほえみ）ながら立ち去った。2-24翌日、再びサン・マルコ修道院に散歩に来たロレンツオを待ちかまえていた昨日の少年が、2-25手直しした牧神頭像を見せた。 2-26歯は何本も欠けて、しかも根から抜けたように歯茎（はぐき）に穴まであけてあった。2-27「豪華な人」は少年がむきになって歯に細工（さいく）している姿を思い浮かべて哄笑（こうしょう）したが、2-28すっかりこの子が気にいってしまい、2-29またこの子が将来フィレンツェ美術界を担（にな）うであろうことを確信して、2-30自分の屋敷に住まわせてちゃんとした教育を与えようと考えた。2-31「君のお父さんはどういう人だね。そして君の名は？」。2-32「ミケランジェロ・ブオナルローティ」と少年は名乗った。 |
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| ロレンツォ・デ・メディチ(Lorenzo de' Medici）。メディチ家の他のロレンツォと区別する意味もあって、ロレンツォ・イル・マニフィコ（Lorenzo il Magnifico）とも呼ばれる。 |
| 謝辞ミチオ・自己研鑽資料 |
| 2016/1/22 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表 笹倉正義 通称：「オリジナル教会」 「ささくら修道会」 2017/2/19 |