（１３）フィレンツェ （１３）フィレンツェ
| 13-1ロレンツオの死とともにメディチ邸を出、13-2人体（じんたい）解剖（かいぼう）の研究に耽（ふけ）っていたミケランジェロも、13-3時勢の変化を敏感に感じていた。13-4フィレンツェでは修道院長サボナローラの声望がますます高まり、13-5フランス軍の侵攻は「神の剣（つるぎ）が速やかに地上に下る」という彼の予言の実現と見なされた。13-6彼のメディチ体制批判はますます鋭さを増し、13-7その説教にはますます政治的含意（がんい）が多くなった。 13-8フィレンツェ共和国を完全に影響下に置き、13-9この国を宗教改革の拠点にしよう。13-10その意図（いと）はますます明確になった。13-11メディチ邸にいた頃からミケランジェロは何度もサボナローラの説教を聞きに行って感動していたし、13-12兄は彼以上に感激して発心（ほっしん）、13-13出家（しゅっけ）してドメニコ修道会に入ったから、13-14一家（いっか）の責任は若いミケランジェロの肩にかかることになった。13-15ピエロもメディチ家の血統で、13-16美術の解らぬ男ではなかったから、13-17この天才彫刻家を粗末（そまつ）には扱（あつか）わなかったが、13-18ミケランジェロはメディチ家への義理とサボナローラの説く正義との板挟（いたばさ）みになっていた。 13-19ある日、かつてメディチ家に仕えていた音楽家の友人がミケランジェロに相談に来た。13-20悪夢（あくむ）を見た、というのだ。13-21今は亡き「豪華な人」が襤褸（ぼろ）をまとって夢枕（ゆめまくら）に立ち、13-22メディチ家が追放されようとしている、13-23早くこのことをピエロに知らせよと命じ、13-24さらに数日後、同じ姿のロレンツオが再び夢に現れて、13-25なぜ命じた通りにしないのかと、激しく叱（しか）ったのだ。13-26夢の話しになってはいるが、13-27実はその友人はメディチ体制転覆（てんぷく）の組織的準備が、13-28サン・マルコ修道院を中心に着々と進展していることを、13-29具体的に知ったに違いない。 13-30彼もミケランジェロもともにメディチ家の庇護下（ひご・か）に育った芸術家であり、13-31しかも今はサボナローラの強烈な個性に魅せられてその説教（せっきょう）に日参（にっさん）している身の上だとしたら、13-32これはもう、単なる思想上の問題ではない。13-33メディチ家の若主人とサン・マルコ修道院長の対決という事態になれば、13-34どちらにつくこともできず、13-35またどちらについても疑われる。13-36悪くすれば生命も危ない。13-37この情報をメディチ家に注進（ちゅうしん）すれば不正な権力の走狗（そうく）となり、13-38秘していれば先代の恩義を忘れた裏切り者となる。13-39進退極まった挙句（あげく）に相談に来たのであろう。 13-40ミケランジェロは夢の話を夢の話のままピエロに告げに行くように強く勧（すす）めた。13-41友人は狩場（かりば）にいたメディチを尋（たず）ねてその話をしたが、13-42ピエロには一笑（いっしょう）に付され、13-43側（そば）にいた書記には怒鳴られて空（むな）しく帰って来た。13-44「なぜロレンツオ様がお前なんぞの夢枕（ゆめまくら）に立たれるのだ。13-45そんな大切な話なら、13-46ピエロ様の夢に出て来られるはずではないか！」。 13-47その結果を聞いたミケランジェロは、13-48深刻に動揺した。13-49二日後、恐怖に駆られた若い天才は、13-50フィレンツェを出奔（しゅっぽん）、13-51ベネチアに向かう。13-52すでに仏軍は大挙してアルプスを超え、13-53ミラノ公の歓迎とジェノバの銀行からの融資も受けて、13-54南へ進軍を開始していた。 |
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| 謝辞ミチオ・自己研鑽資料 |
| 2016/1/26 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表 笹倉正義 通称：「オリジナル教会」 「ささくら修道会」 2017/2/19 |