（３）新婚 （３）新婚
| 3-1やがて花婿到着（とうちゃく）。3-2自慢（じまん）の馬にまたがって3-3恰幅（かっぷく）のよい長身（ちょうしん）、3-4ローマの貴族や3-5高位（こうい）聖職者を従（したが）え、3-6金髪（きんぱつ）を早春（そうしゅん）の日（ひ）ざしに輝かせて、3-7聖天使城の正門（せいもん）前に降り立つ。3-8美食を愛し、3-9乗馬（じょうば）と狩猟（しゅりょう）の名手（めいしゅ）で、3-10戦闘に当たっては勇猛（ゆうもう）果敢（かかん）、3-11王というより3-12武将（ぶしょう）と呼ぶほうがふさわしい人柄（ひとがら）である。3-13色（いろ）の道でもなかなかの豪（ごう）の者で、3-14故郷（こきょう）プロバンスにも、3-15王都（おうと）パビーアにも、3-16何人（なんにん）も愛人（あいじん）がいるとは、3-17口（くち）さがないローマ市民の3-18もっぱらの評判（ひょうばん）。 3-19そんなウーゴを出迎（でむか）える3-20新婦（しんぷ）マローチヤは、3-21豪華（ごうか）な白（しろ）の結婚衣裳（いしょう）に3-22赤紫（あかむらさき）のチェニック（古代ローマの貴族が羽織ったトウニカのこと）を羽織（はお）り、3-23髪飾（かみかざ）りにはふんだんに宝石（ほうせき）をちりばめ、3-24細密（さいみつ）な模様（もよう）を彫（ほ）り込（こ）んだ3-25金（きん）のブレスレットを両腕（りょううで）にはめて、3-26ここを先途（せんど）と装（よそお）いを凝（こ）らしている。3-27この時代のこととて生年（うまれどし）は定かではないが、3-28たぶん四十路（よそじ）に入ったはず、3-29さすがの美女も年（とし）には勝てず、3-30厚化粧（あつげしょう）の下に3-31肌（はだ）の疲（つか）れを隠（かく）すことはできなかったようだ。 3-32ウーゴにとってマローチヤは、3-33長年（ながねん）兄嫁（あによめ）だったのだから、3-34これが初（はつ）の対面（たいめん）ではない。3-35往年（おうねん）の美貌（びぼう）を知っているだけに、3-36がっかりしたかもしれないが、3-37もともと愛だの恋だのが動機（どうき）ではなく、3-38美貌目当（めあ）ての結婚でもない。3-39両者の権力意志が合致（がっち）してのこの婚礼（こんれい）であるから、3-40花嫁が少々老（ふ）けているくらいは、3-41二（に）の次（つぎ）三の次の問題でしかない。 3-42ハドリアヌス帝の石棺（せっかん）の置かれていた広間（ひろま）で、3-43教皇直々（じきじき）の祝福（しゅくふく）を受けて、3-44式（しき）は滞（とどこお）りなく終わり、3-45イタリヤ王の権力と3-46ローマ教皇庁（きょうこう・ちょう）の実権とが、3-47こうして合体（がったい）することになった。3-48豪勢（ごうせい）な披露宴（ひろうえん）が済むと、3-49二人（ふたり）はまた式場（しきじょう）となった広間に戻ってきた。3-50ウーゴはこの聖天使城を3-51夫婦（ふうふ）の新居（しんきょ）とし、3-52この広間を新婚の寝室（しんしつ）とすることに決めたのである。 3-53ローマ貴族が3-54心からこの結婚を歓迎しているわけではないこと、3-55ローマの民衆（みんしゅう）の中に3-56マローチヤとその一族（いちぞく）の横暴（おうぼう）を憎むものが多いこと、3-57それをウーゴは知っていたから、3-58安全第一（あんぜん・だいいち）を図（はか）ったのである。 3-59ウーゴもマローチヤも、3-60中世（ちゅうせい）貴族の常（つね）として、3-61字（じ）が読めず、3-62まったくの無学（むがく）であったから、3-63聖天使城について、3-64グレゴリウスの奇蹟（きせき）は知っていたろうが、3-65古代の皇帝については何も知らなかった。3-66自分の墓が3-67イタリヤ王（おう）夫妻（ふさい）の新婚の3-68寝所（しんじょ）に使われると知ったら、3-69ハドリアヌスはたぶんあの世で苦笑（くしょう）したに違いない。 |
| 次へ |
| 謝辞ミチオ・自己研鑽資料 |
| 2014/9/1、2016/4/3 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表 笹倉正義 通称：「オリジナル教会」 「ささくら修道会」 2017/2/28 |