（３） （３）
| 3-1その塔の頂上（ちょうじょう）を見上げた信徒（しんと）が声を挙（あ）げた。3-2「グレゴリオ様、あれは何でございましょう」。3-3グレゴリオと呼ばれた修道院長は、3-4そこに天使（てんし）の姿を認めた。3-5「あれこそは神のみ使い、3-6聖天使。3-7見よ、3-8皆の衆、3-9聖天使様は今、3-10剣を鞘（さや）におさめようとなさっている。3-11喜べ、3-12神罰は終ったのじゃ」。3-13人々は空（そら）を見上げ、3-14グレゴリオの言うとおりの天使の姿を、3-15ハドリアヌス霊廟（れいびょう）の頂上に見た。3-16その日から、3-17疫病の勢（いきお）いはしだいに衰（おとろ）え、3-18鎮静（ちんせい）した。 3-19そして、ハドリアヌス帝の霊廟は、3-20カステル・サンタンジェロ、3-21すなわち聖天使城（せい・てんし・じょう）と呼ばれるようになった。3-22幾世紀（いく・せいき）を経（へ）た今も、3-23聖天使城の頂（いただき）には、3-24剣（けん）を鞘（さや）におさめようとする天使の像が見られる。 3-25洪水（こうずい）の中に出現（しゅつげん）した巨龍（きょりゅう）といい、3-26この聖天使といい、3-27現代人（げんだい・じん）にはなかなか信じられない話だが、3-28六世紀末（ろくせいき・まつ）のイタリヤ人の大多数（だい・たすう）が3-29それを信じていたことは間違いない。3-30古代（こだい）西方（せいほう）世界の晴朗（せいろう）な理性は、3-31神秘（しんぴ）と奇蹟を待望（たいぼう）する中世（ちゅうせい）の情熱に道を譲ったのである。3-32そしてこの疫病退散祈願（えきびょう・たいさん・きがん）の行列（ぎょうれつ）を組織（そしき）し、3-33指揮（しき）した修道院長グレゴリオこそ、3-34この新しい、3-35暗鬱（あんうつ）な時代の、3-36最高（さいこう）の指導者となる運命（うんめい）を3-37背負（せお）っていたのである。 3-38聖天使の奇蹟によって、3-39ペストは潮（うしお）が引くように去っていったが、3-40教皇ペラギウスは病没（びょうぼつ）。3-41ローマの聖職者（せいしょくしゃ）と市民（しみん）は3-42挙（こぞ）ってグレゴリオを後任に推挙（すいきょ）した。3-43これがこの頃の司教（しきょう）の選び方であり、3-44ローマの司教が教皇と呼ばれるのである。3-45グレゴリオは固辞（こじ）し、3-46この推挙を認めないよう3-47東ローマ皇帝宛に親書（しんしょ）を書いたが、3-48この手紙は届かなかった。 3-49困（こま）ったグレゴリオは3-50洗濯物（せんたくもの）の箱（はこ）の中に隠（かく）れ、3-51二人（ふたり）の召使（めしつか）いに命じて、3-52このまま市外（しがい）へ運び出させ、3-53逃亡（とうぼう）しようとした。3-54ところが不思議（ふしぎ）や、3-55城門（じょうもん）に近づいたとき、3-56その洗濯物の箱から後光（ごこう）がさし、3-57怪（あや）しんだ通行人（つうこうにん）がむりやり箱を開けさせ、3-58グレゴリオを引っぱりだして、3-59そのままサン・ピエトロ大聖堂へ連れて行き、3-60有無（うむ）を言わさず教皇に就任（しゅうにん）させた。3-61教皇の認可状（にんか・じょう）もすでに届いていた。3-62大教皇グレゴリウス（イタリヤ語読みでグレゴリオ）一世（いっせい）は、3-63こうしてキリスト教会の首長（しゅちょう）となったのである。 |
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| 謝辞ミチオ・自己研鑽資料 |
| 2014/9/1、2016/3/30 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表 笹倉正義 通称：「オリジナル教会」 「ささくら修道会」 2017/2/26 |