（１２）王妃(おうひ)テオドリンダ

12-1フランスのカトリック教会組織（そしき）網（もう）は12-2ローマの指示で活性化（かっせい・か）し、12-3教皇国家（こっか）との連携（れんけい）を強めるべく12-4フランク王（おう）宮廷（きゅうてい）に働（はたら）きかけたが、12-5グレゴリウスの構想（こうそう）はさらに遠大（えんだい）だった。12-6フランスのさらに背後地である12-7イングランドをも12-8カトリック圏内（けんない）に吸収（きゅうしゅう）しようというのである。12-9西暦５９６年、12-10腹心（ふくしん）の修道士（しゅうどう・し）アゴスティーノ（ラテン語読みでアウグスティヌス、英語読みではオーガスティン）を長（ちょう）とする12-11四十人（よんじゅう・にん）の伝道（でんどう）団（だん）を派遣（はけん）。

12-12当時の英国は12-13アングル族とサクソン族の、12-14いわゆる七（なな）王国（おうこく）時代（じだい）だったが、12-15住民（じゅうみん）のほとんどが異教徒だった。12-16ローマの伝道団は12-17途中（とちゅう）フランスに立ち寄ったが、12-18フランク王国の人々は、12-19英国（えいこく：イギリスのこと）への布教（ふきょう）なんてとんでもない、12-20と言った。12-21「サクソン族は未開（みかい）であり、12-22アングル族は食事（しょくじ）よりも殺人（さつじん）を好んでいる。12-23人間（にんげん）の血に飢（う）え、12-24特にキリスト教徒の血を最も好むと言いますぞ」。

12-25驚き恐れたローマの修道士（しゅうどうし）たちは、12-26伝道を諦（あきら）めてローマに引き返したが、12-27教皇は許さなかった。12-28ひるむ修道士を責（せ）めかつ励まし、12-29再び出発させる。12-30行って見れば案（あん）ずるより生（う）むが易（やす）く、12-31布教は成功（せいこう）、12-32カンタベリーに英国最初（さいしょ）の修道院が生まれ、12-33アゴスティーノは聖者（せいじゃ）とあがめられた。12-34以後（いご）英国ではカトリックが基礎（きそ）を固（かた）め、12-35次の北欧（ほくおう）布教の拠点（きょてん）となる。

12-36一方（いっぽう）、ランゴバルド族の王都（おうと）12-37パビーアの宮廷でも、12-38改宗への歩（あゆ）みは着実（ちゃくじつ）に進（すす）んでいた。12-39ここでの有力（ゆうりょく）な手がかりは12-40美しい王妃（おうひ）テオドリンダ、12-41アリウス派ばかりのランゴバルド貴族の中で、12-42異種族（い・しゅぞく）から嫁（とつ）いできた彼女（かのじょ）だけが12-43熱心（ねっしん）なカトリック教徒だった。12-44教皇は頻繁（ひんぱん）に王妃に手紙（てがみ）を書き、12-45フランスの司教（しきょう）や12-46修道院長は12-47宮廷に日参（にっさん）して12-48王妃の信仰を強める。

12-49百年前、12-50フランク王クロービスの改宗の時にも、12-51同じ立場（たちば）の王妃クロティルドの尽力（じんりょく）は大きくものを言ったことを、12-52グレゴリウスはよく知っていた。12-53ランゴバルド貴族の中から12-54カトリックへ改宗する者が続出（ぞくしゅつ）し始める。12-55王は個人としては頑固（がんこ）に改宗を拒否（きょひ）したが、12-56この傾向を妨げようとはしなかった。12-57たぶんアリウス派信仰に固執（こしつ）するのは12-58政治的に得策（とくさく）でないと、12-59わかっていたのだろう。

12-60西暦６０３年春、12-61結婚後十一年目に、12-62テオドリンダ妃（ひ）はめでたく男児（だんじ）を分娩（ぶんべん）、12-63この世継（よつぎ）の王子（おうじ）は12-64ローマ・カトリックの洗礼（せんれい）を受けた。12-65改宗への流れは奔流（ほんりゅう）となり、12-66ランゴバルドの貴族高官（こうかん）は12-67雪崩（なだれ）を打（う）ってカトリックに移り、12-68民衆もそれにならった。12-69アリウス派に最後まで義理（ぎり）を立てたのは、12-70王アギルルフだけだった。12-71教皇グレゴリウスのお構想（こうそう）は12-72全面的（ぜんめんてき）に実現（じつげん）した。

12-73これを、12-74信仰を利用して世俗（せぞく）権力を固めたと見るか、12-75それとも世俗権力を利用して信仰を広めたと見るかは、12-76主観（しゅかん）の相違（そうい）だろうが、12-77当時（とうじ）のカトリック教会にとって12-78これが最善（さいぜん）の道（みち）であったことは疑（うたが）い得（え）ない。
 
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謝辞ミチオ・自己研鑽資料
2014/9/1、2016/4/1 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義
通称：「オリジナル教会」　「ささくら修道会」
2017/2/27