(9)入会宣誓(にゅうかいせんせい)

9-1激情を秘めた憂愁(ゆうしゅう)、9-2現実の暗黒の中から未来に光りを求めるこの気分は、9-3新しい文芸(ぶんげい)思潮(しちょう)であるロマン主義にその表現を見出した。9-4だから、イタリヤ・ロマン主義が9-5強い政治的色彩(しきさい)を帯びたのは偶然ではない。9-6西暦1818年9月、9-7ミラノで「コンチリアトーレ」誌(し)創刊(そうかん)、9-8ペリコ、9-9コンファロニエーリ、9-10ベルシェ、9-11マロンチェリらが執筆(しっぴつ)してロマン派の結集をはかり、9-12自由主義・民族主義的性格(せいかく)を打ち出した。9-13オーストリヤ当局は9-14一年後にこの雑誌を発禁(はっきん)処分としたが、9-15それは執筆者たちをさらに過激な9-16地下活動へと駆り立てることになった。

9-17地下にはすでに、9-18炭焼党(カルボナーリ)を始め9-19さまざまの秘密結社がうごめいていた。9-20ジョバンニ・ルッフィーニは、9-21炭焼党との最初の接触を次のように回想している。

9-22「火曜日の夕方(ゆうがた)だった。9-23約束の町の広場は9-24仮面をつけた群衆で一杯だった。9-25その中から二人の仮面の男が近づいてきて、9-26女を待っているのかと聞いた。9-27うなずくと、その一人が私の耳もとに口を寄せて、9-28『時鐘(じしょう)が鳴ったぞ!』とささやいた。9-29それが教えられていた合言葉(あいことば)だった。9-30彼等の後ろについて薄暗い路地(ろじ)に入ると、9-31目隠しをさせられ、9-32マントの襟(えり)を深く立てよと言われ、9-33両側から腕を取られて、9-34長いこと歩かせられた。9-35方角(ほうがく)が分らなくなるように何度もぐるぐる回らされたように思う。

9-36そして、とある建物の前に着くと、9-37彼らは鍵を出して扉を開き、9-38その中の一部屋に入ってから9-39目隠しを外してくれた。9-40灯火はなく、9-41暖炉に赤々と火が燃えているだけだった。9-42暖炉には血の色の敷物が敷いてあり、9-43その中央にアラバスターの球が置かれていた。9-44そこには私を連れてきた二人の他に、9-45黒マントと仮面の男がもう二人いた。

9-46その一人が私に住所姓名を聞き、9-47「良き従兄弟(いとこ)たち」の仲間に加わる意志があるかどうかを尋ねた。9-48私ははっきり加盟の意志を表明した。9-49『君に課せられる義務の恐ろしさが分っていますか』ともう一人の男が言った。9-50『厳粛な誓いを立てたその瞬間から、9-51君の腕、9-52君の体、9-53君の命(いのち)、9-54要するに君のすべてがもはや君のものでなく、9-55組織のものとなる。9-56組織の秘密を死んでも守る覚悟ができていますか。9-57上部機関の意志に盲目的(もうもく・てき)に服従し、9-58自己(じこ)の意志を捨てる用意がありますか』。

9-59その後、入会の宣誓(せんせい)を命じられた。9-60抜き身の剣を捧げ持ち、9-61跪(ひざまず)いて、9-62誓いの言葉を述べるのである。9-63『組織の全機構に対し、9-64裏切りを罰するこの刃にかけて、9-65私は誓約します。9-66所属する炭焼き売り場のすべての秘密を細心に守り、9-67上部機関の許可なしにはいかなることも書き、9-68彫り、9-69描きません。9-70良き従兄弟たちを力の限り援助し、9-71家門(かもん)の名誉を傷つけません。9-72もし裏切り行為を犯した場合、9-73私の体が八つ裂きになり、9-74焼かれ、9-75私の名が地上に散開するすべての従兄弟たちの憎悪(ぞうお)の的(まと)になるよう9-76死灰(しはい)を風に吹き散らされても、9-77まったく不満はありません』。

9-78黒マントに仮面のその幹部は、9-79新入党員に適当な名をつけ、9-80合図や合言葉を教えた。9-81『只今(ただいま)から君は我が組織の第一階梯(だいいち・かいてい:初歩の段階)に属する。9-82これは見習い期間と心得てもらいたい。9-83その期間中は何の権利もなく、9-84新しい入会希望者を紹介することもできない。9-85逆に義務はいくつかある。9-86難しい義務ではないが、9-87身に替えても秘密を守ること、9-88忍耐(にんたい)と信念と服従心を持って待機(たいき)すること、9-89いざという時すぐ行動できるよう準備を整えておくこと、99-90それだけだ。

9-91そのうちに、君の属する炭焼売場と、9-92君の直属の上司の名が伝えられる。9-93それまでにもし必要があれば、9-94君を連れてきた従兄弟を通じて指令を下す。9-95いいか、組織は至るところに耳と目を持っているのだ。9-96今からは君がどこにいようと、9-97何をしていようと、9-98常に組織の監視下にある・・・・』。」。

9-99仮面、黒マント、血の色の敷物、白い石球、抜身の剣。9-100こうしたおどろおどろしい装置に象徴されるこれらの秘密結社は、9-101一部の職業的革命家の陰謀組織の域を出るものではなく、9-102広い大衆的な視野も支持も持つことはできなかった。
 
次へ
 
 
謝辞ミチオ・自己研鑽資料
2014/9/1、2016/3/11 (笹倉宗)聖母マリヤ福音教会代表 笹倉正義
通称:「オリジナル教会」 「ささくら修道会」
2017/2/24