（１５） （１５）
| 15-1メレッリはかなりの怪人物（かいじんぶつ）で、15-2若い時は放蕩（ほうとう）に身を持ち崩し、15-3窃盗（せっとう）まで働いてさんざん親を泣かせたが、15-4その間に身につけた社交性と要領の良さで、15-5演劇の世界のボスとなり、15-6この頃はミラノの国立劇場（こくりつ・げきじょう）の総支配人という地位にのし上がっていた。15-7その彼が新人ベルディの将来性を素早（すばや）く見抜き、15-8三本のオペラの作曲（さっきょく）を依頼してきたのである。15-9条件は、15-10八ヶ月で三本を仕上げること、15-11最初の作品はオペラ・ブッファ、15-12すなわち喜劇仕立ての歌劇にすること、15-13報酬（ほうしゅう）は大枚（たいまい）一万二千リラ。 ---前ページの同様の試算１リラ＝１０００円とすると、１２００万円。時代、インフレ、デフレ、地域の物価などで、貨幣価値は変動するが、かなりの誤差があるにしても、確かに大金だ。 15-14だがベルディは悩んだ。15-15「オベルト」は全身全霊を込めて二年かかったのに、15-16八ヶ月で三本とは。15-17それに彼の本領はスケールの大きな歴史物で、15-18軽快で洒落（しゃれ）た喜劇はまったくの苦手（にがて）である。15-19苦吟している間に、15-20思いもかけぬ不幸が彼を襲った。15-21妻のマルゲリータが突然（とつぜん）脳膜炎（のうまくえん）を患（わずら）い、15-22わずか数日の後、15-23夫の腕の中で息絶（いき・た）えたのである。 15-24先に愛児（あいじ）を失い、15-25今また愛妻に先立たれたベルディの嘆きは深く、15-26落胆は大きかった。15-27やっと仕上げた喜歌劇は、15-28もちろんまったくの不評だった。15-29絶望して郷里に戻り、15-30舅（しゅうと）の家に籠（こも）って無為（むい）に日を過したが、15-31思い出すのは在（あ）りし日の優しいマルゲリータのことばかり。15-32あんなに良い妻だったのに、15-33仕事にかまけて何も報いてやれなかったと、15-34後悔に身をさいなんで、15-35「もう二度と作曲などしない」と誓ってはみたものの、15-36蓄えも残り少なくなってくれば、15-37老いた舅に迷惑をかけることはできぬ。 15-38思いを決してミラノへ出、15-39狭いアパートに引っ越して、15-40ピアノの個人教授で何とか暮らしを立てることにしたが、15-41社交性乏（とぼ）しく気むずかしいベルディのことゆえ、15-42誰一人訪れる友人もなく、15-43また友達を作る術（すべ）もお知らなかった。15-44他人の顔を見、15-45言葉を交わすのが厭（いや）さに、15-46食事に出るのも気が進まず、15-47鶏（にわとり）をまるごとゆでて、15-48それをかじって何日も過すのも稀（まれ）ではなかった。15-49暗澹（あんたん）とした日が続き、15-50いつ終るとも知れなかった。 |
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| 謝辞ミチオ・自己研鑽資料 |
| 2014/9/1、2016/3/13 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表 笹倉正義 通称：「オリジナル教会」 「ささくら修道会」 2017/2/24 |