（１２） （１２）
| 12-1そのパルマ公国領に、12-2ブッセートという小さな町がある。12-3そこで争いが起こり、12-4町が二派に分かれて乱闘騒ぎになっているというので、12-5珍しく女公みずから調停（ちょうてい）に乗り出すことになった。12-6調べてみるとそれは政治的または思想的な背景は何もなく、12-7町の教会のオルガン奏者（そうしゃ）のポストをめぐっての、12-8いかにも田舎町（いなかまち）らしい党派争いなのであった。12-9才能卓越（さいのうたくえつ）した若い音楽家（おんがっか）が町にいるのに、12-10それをさしおいて凡庸（ぼんよう）なオルガン弾（ひ）きを情実（じょうじつ）で採用した、12-11というのが争いのもとらしかった。12-12女公はその「才能卓越した」音楽家をじきじきに呼んで事情を聞いた。12-13その若者の名はジュゼッペ・ベルディといった。 12-14西暦１８１３年１０月12-15ブッセート近郊（きんこう）の村の小さな食料品店の子として生まれ、12-16幼くしてブッセートで音楽を学び、12-17十歳の時から他人に教えるほどの腕前（うでまえ）になった。12-18この町の裕福な薬局（やっきょく）の主人バレッツイは音楽道楽（どうらく）で、12-19自分の財布（さいふ）で町の楽団を維持し、12-20家にはピアノも置いていた。12-21ある日ベルディ少年の演奏を洩（も）れ聞いた彼は、12-22その才能に惚（ほ）れ込み、12-23何とか世に出そうと決心して、12-24生活の面倒を見ることにした。 12-25彼には年頃（としごろ）の娘がいたが、12-26ゆくゆくは娘の婿（むこ）にと思ったのかも知れない。12-27艶（つや）やかな長い栗色（くりいろ）の髪の美しいその娘マルゲリータと、12-28風采（ふうさい）はあまり上がらないが12-29男らしく誇り高いジュゼッペが、12-30互いに愛し合うようになるのに12-31時間はかからなかった。12-32だがともかくすべては12-33一人前の音楽家になってからのことだ。12-34まずミラノの音楽学校に入学するのが先決（せんけつ）である。12-35バレッツイは費用を工面して、12-36彼をミラノへ送り出した。 12-37ところが、郷党（きょうとう：郷里に住むひとびと）の熱い期待も空（むな）しく、12-38ジュゼッペは音楽学校の入試に落第（らくだい）してしまったのである。12-39もっとも、落第の理由は実技（じつぎ）ではなく、12-40「態度が悪い」と見なされたためらしい。12-41田舎育ちで言動が粗野（そや）であり、12-42正規の教育を受けていなくて、12-43教養もなかったのが災いしたのだが、12-44環境のせいばかりではないので、12-45彼の性質そのものが12-46都会的な洗練を受け付けないようにできていた。 12-47ミラノで暮らすようになってからも、12-48服装は野暮（やぼ）なままだったし、12-49考え方も農民的な視野の狭さや疑い深さを脱せず、12-50社交性（しゃこうせい）も最後まで身につかなかった。12-51それでも、愛すべきバレッツイはこの子にとことん入れあげるつもりでいたので、12-52入試失敗後もミラノにとどまって、12-50個人教授を受けるように取りはからってくれた。12-51そこへブッセート大聖堂オルガン主任の話が降って湧いて、12-52急ぎ帰郷したのであった。 |
| 次へ |
| 謝辞ミチオ・自己研鑽資料 |
| 2014/9/1、2016/3/12 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会代表 笹倉正義 通称：「オリジナル教会」 「ささくら修道会」 2017/2/24 |