火野葦平「戦争犯罪人」より
８．Ａ級戦犯の十三階段

Ａ級戦犯七人を処刑した絞首台は、このときのためにわざわざ新設されたものであつた。裏門に近い運動場の片隅に、十三階段が作られた。執行後は取りこわされたが、その材料がどう処分されたか。はじめは誰も知らなかつた。焼きすてられたものであろうと想像されていた。ところが、しばらくして、それらはほとんどアメリカに持ち帰られたことがわかつた。分解して船に積まれたらしい。そして、アメリカでまた組みたてられて、太平洋戦史の最後をかざる歴史的遺品として陳列されたのか、スーグニール好きのアメリカ人たちが、細かに分解してそれぞれお土産にしたのか、そこまでは囚人たちにはわからなかった。しかし、この奇妙なニュースを聞かされたとき、貞村洋一はなぜか笑うことが出来ず、深くて暗い人間の深淵をのぞきこんだような不気味さを感じた。
　
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2012/3/13　笹倉キリスト教会　笹倉正義