神谷美恵子著作集より
　日記　昭和十八年八月十五日（日）

八月十五日（日）
けさは蚊帳の中に机を入れて、午前いっぱい統計をやった。午後から試験室へ行くと、当直の立川先生と、どの日も休まず研究している宮田先生とが顕微鏡をのぞいていた。しらべものの残りを立川先生に手伝っていただく。雷雨のややしずまるのを待って、番傘に長ぐつといういでたちで看護婦さんに案内され、患者さんたち三人を訪問。どの人もみな「どうぞ卒業後いらして下さい」と言う。

六時ごろかえると雨がやんで虹が島の上に大きくかかった。やがて満月が海の真上に夜の女王のように輝きわたった。ひとり清水のほうへ歩いて行くと、海面に無数の銀の玉がおどっている。清水は岩かげにこんこんと湧いていた。持ってきたひしゃくですくって飲むと、光の雫（しずく）があふれてこぼれおちた。

お腹をわるくして先日からねている看護婦さんを見舞いに行き、いろいろと看護婦同士の対人関係のむつかしさをきかされた。　次へ
　
2011/1/29