（１０）DDR（東ドイツ）出張三ヶ月・その後

出張は１９８６年の１１月末から翌年２月中旬までの三ヶ月ちょっと。無事帰国した。このような言い方をするのは、ユピタの宿舎の近くで、乗車していたタクシーと路面電車の衝突という交通事故があって、命を落とされた同僚社員を見たからだった。 会社は、生産能力を証明するための最終テスト実施にあたり、大量の鋳物・鋳鋼関係の現場社員を動員し、現地に送り込んだ。引渡しの条件になっている、生産トン数確保に社運をかけているといった覚悟が見て取れた。テストの首尾は良好で、相手の工場長が無条件にＯＫできるものではなかったにしても、政治決着が図れる成果を出した。 その時わたしは、そうなるように天が味方したと思った。テストとその準備期間中、ライプチッヒの天候は晴れて、降っても雨で、温暖だった。そして最後の鋳造が終わった瞬間に、気温は急激に下がって、地面の水溜りがばりばりと凍ったのだった。わたしは、このような自然現象も信仰に関連付けることができた。そして、その信仰のゆえに、神に感謝することができるのだった。 結局、設備をひとつ新規にプレゼントするということで、政治決着が図られ、ＬＰＺ事業は終息にむかった。日本からは他のメーカーも進出していたが、同じような「契約書」の見誤りから生じたことで、少なからず苦労していた。あまりいじめると、日本の企業が来なくなる、という政治的配慮があったのだ。 利益をあげるべき会社が、これほど大きな損害を計上した以上、わたしは大規模なリストラがあると思った。しかし、会社はそのようなことはしなかった。地味な会社だが、財務はしっかりしているという評価の会社だった。わたしが驚いたのは、現地で長く活動した人たちを、昇進させて、その労をねぎらったことだった。わたしは単なる出張だったので、それには無縁だったが、何事もなかったように、もとの職場に復帰したのだった。なので、転職対策は、しないことになった。 リストラの嵐が日本列島に吹くのは、これからおよそ１０年後のことだった。わたしもその例に漏れなかったが、結局、数年の社外出向を経て、６０歳で円満退職したのだった。本社近くのレストランで最後の食事会をしてもらったが、人事課長が同席して話をきいてくれた。人事課長と話をしたのは入社以来はじめてではなかったろうか。おひらきになって、人事の担当女性が花束を贈呈してくれた。 会社は私を養ったとしか言いようがない。わたしは会社の柱の一本とはならなかった。採用面接で小田原大造社長はわたしを×にしなかった。「これでよかったのでしょうか」と、社長の御霊に問うた。 そして、わたしは分譲マンションの管理人に的を絞って再就職活動をした。三ヶ月の就職活動の結果、首尾よく目的の職を得た。それはわたしにとって、管理員を大事にする願ってもない会社だった。 わたしは、「分譲マンションの管理」に関する情報をホームページ上に作り始めた。ところが、数ヶ月して、ふうっと「キリスト教」のＷｅｂ説明書を作り始めたのだった。そして８年もたった２０１７年、ＮＨＫ２ラジオで、マルチン・ルターの講座をそれとなく聞く中で、かれの活動した二つの地域が、ライプチヒ市のほんの百数キロにあることを知ったのだった。 「キリスト教説明書」作成の始めに、わたしは啓示によってテオピロがカペナウムの百卒長であることが示された。それはおのずと、ルカこそはイエスの言葉で助けられたローマ軍士官の僕（しもべ）であるという確信に導いた。ルカは、聖母マリヤから断片的にさまざまなイエスについて聞き書きした。それはその時からおよそ３０年前のイエス誕生の不思議だった。どうしたら、彼女の話の事実を証明できるのか。エリザベツの妊娠、ローマ皇帝の人口調査命令、羊飼いの話が用いられた。ルカは現地でその事実を確かめた。 おお、わたしは「ルカによる福音書」がテオピロへの報告書と信じたが、今朝はそれが聖母マリヤにささげられたものとその信仰を拡大した。 わたしは、ＬＰＺからおよそ３０年を経て、これらのページを作成した。その事実性を示すものは、わたしの持っていた写真と資料だけである。しかし、信仰によって、これが「ルカによる福音書」に結びつくのである。エバに講義した福音書がまさにそれであったことに、驚きと感謝を禁じえない。

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笹倉　正義
2018/5/15、5/18