親鸞
(激動篇）五木寛之(97)
地方紙掲載2011/4/9（土）

夏の終わり（２）
　そのころ、思いがけない便りが都から親鸞のもとにとどいた。
　それは犬麻呂からの手紙である。長い時間をかけて人の手で運ばれてきたので、状袋は汚れてるものの、いかにも達者な筆づかいだった。
　日野家の召使だった犬丸が、独立して成功し、葛山犬麻呂として世間に知られる商人となるあいだに、ひそかに書も学んだのだろうかと親鸞は感心した。
　恵信は親鸞のまぢかにくっついて座り、心せく様子で彼の表情をみつめている。
「よかった」
と、親鸞は顔をほころばせた。
「法然上人が正式に罪を許されて、いまは摂津の勝尾寺に滞在されておられるそうだ」
「なんとうれしいことでしょう」
二人は顔を見合わせて、うなずきあった。

2011/4/9
親鸞は妻の恵信と共に流刑地の越後にいる。